月無夜

□月無夜
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赤月晶。





月光水晶に朱雀を閉じ込め、使役できるようにと加工を施されたクライン家の秘宝。








赤月晶がある限り、退魔一族唯一四神を使役するということで最強を誇ってきた。






しかし赤月晶は莫大な霊力を必要とした。ラクス一人の霊力では一匹の朱雀を扱えない。










だからお父様は一匹の朱雀を二つにした。










赤月晶はその主人を守る。




対価は主人の霊力。









霊力を持つ者にとって、それは生命源となる。








深手を負っても赤月晶が癒すが、代償は霊力。霊力の少ないラクスは、死ぬ一歩手前まで吸い取らてしまう。










私なら一日か二日で復活できる。











けれど、ラクスは。






























『……ミーア』





『……パパ。おかえりなさい』












一人ぼんやりと天井を眺めながら階段に座っているミーアに、帰宅したシーゲルが見つけ声をかけていた。

















『アリスが嘆いていたよ。君がそんなとこに座っていると』













ミーアの隣にシーゲルも腰を降ろすと、彼女の頭に手を置く。








ぽんぽんと優しく叩かれ、ミーアは視線を膝の上に降下させた。

















『…パパ。お願いがあるの』









ぽつりと呟いた言葉に、シーゲルは穏やかな微笑みを浮かべた。














『…朱雀を、…私に』



















『聞けないよ、ミーア』










ミーアが言い終わる前に、シーゲルはその言葉を遮った。ミーアの顔がたちまち苦痛に歪む。












『何度も言うようだけど、それは駄目だよ』













にっこりと変わらない笑みを向けるシーゲルに、ミーアは喉がつまりそれ以上は何も言えなくなってしまった。










優しい笑顔と優しい腕。











何も変わらない父親に、ミーアは逆らうことができなかった。









完全な朱雀が欲しいなら、ラクスの赤月晶を奪えばいいだけ。











それをできないのは父親の言葉があるからだった。










優しい優しい父親を、ミーアは愛していた。













残酷なほど優しい、優しすぎる父親を、ミーアは裏切れなかった。












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