月無夜

□月無夜
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『ラクスは朱雀を使役してるよね。なんで片翼なの?そういえば、ミーアも片翼‥』









出された紅茶をすするラクスを見ながら、キラは唐突に尋ねた。紅茶を飲みながら、目を丸めたラクスは、数拍の後、上品にカップをソーサーに戻すと長い髪をかきあげる。















『このピアスは赤月晶でできています。月光水晶に朱雀を封印し、使役することは、クラインの秘術。月光水晶を人間が使用できるのはこのサイズですのよ』










『‥‥月光水晶には色々な力があるって聞くけど』












『そうですね。このくらいですと、治癒力が上がったり、カテゴリーCくらいを呼び寄せるだけですわ。朱雀が片翼なのは、お姉様と一匹の朱雀を分けているからですの』
















かきあげていた髪を元に戻し、どこか困ったように微笑んだ。






その微笑みに、キラは首を傾げた。










姉を語るときのラクスは、いつも嬉しそうに笑うのに、今の彼女は辛そうに微笑むからだった。

















『わたくし、お姉様より霊力が弱いのです。本来ならお姉様一人で朱雀を使役できるのですが、わたくしは堪えられません。お父様はお姉様一人を闘わせることをよしとしませんでした。ですから朱雀を分けたのです』










『君は朱雀をミーアに渡したいの?』













キラの問いにラクスはゆっくりと首を横に振った。













『…いいえ。わたくしは、お姉様から朱雀を戴きたいのですわ。お姉様は、太陽の下がお似合いですもの』











遠くを、ここはいない愛するたった一人を、見つめるラクス。その真っすぐな瞳に、キラは見惚れた。

















『貴方も、そう思いませんか?』











にっこりと優しく微笑むラクス。



その笑顔はたった一人のもの。











ラクスはたった一人を想うからこそ、美しく微笑むことができるのだ。
















『…ふぅん』









僕は君も太陽の下が似合うと思うけどね。







その笑顔は、月光の下で血を浴びるよりは、日光の下に在るほうが一番なのに。

















『――わたくし、貴方にお伝えしたいことがありましたの』











『?』










他人用の、彼女にとってどうでもいい人間用の笑顔で、微笑んだ。



















『アークエンジェルに、いらっしゃいませんか?』













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