It is caught in white
□Lovely mischievous
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陽射しは穏やかで、けれど確実に日々温かくなって来ていて春という季節を花や草木が具現し始めたある日。
任務の入っていなかったアレンは昼食を終え、一人で歩き慣れ始めたばかりの森林を散策していた。
アレンの方向音痴度はかなり酷いもので、ティムが一緒にいなくても森林に入れるようになれたのは、理由が有る。
何回も迷子になってしまうアレンの事をその度に探す羽目になる神田が呆れた様子を隠しもせずに、けれど、アレンの為にところどころに目印を付けた。
アレンが歩くべきところを示すように、どこからか入手して来た真っ赤なリボンを木々の枝に結びつけた。
アレンと一緒に歩きながら神田がシッカリと結んで行ったそれらは解ける事も無く、今日もアレン誘導する。
温かい陽射しが心地好くて、赤いリボンの存在を目で確認しながら歩くアレンの口元は少し綻んだ。
奥へと進むと神田が修練に使う場所が在り、更に進むといきなり視界が開ける。
「あ、いた!」
広がる草地をゆっくり歩いて、一際目立つ大きな木の元へ向かうアレンは微笑んだ。
その木の根元には、神田が寝転んでいた。
「寝てるのかな…?」
そっと近付いて、アレンは神田を見下ろした。
「珍しい…かも」
気配に敏感な筈の神田はアレンがすぐ近くに立っても気付かずに、眠っていた。
修練を積みにやって来て、その後ここに来て眠ってしまったのだろう。
髪を解き、団服の前も全開でその下に着込んでいるシャツさえ、はだけている。
アレンはその神田の横にペタリと座った。
――そう言えば…神田の寝顔見るの初めて?
アレンは両膝を抱えながら、チラリと神田の顔を見つめる。
――眉間に皺寄って無い。それに……。
と、考えながら頬を染める。
――何か、こうやって見るとつくづく神田って。
「綺麗な人……」
眉間に皺も寄っていない、柳眉も吊り上がっていない、貴重な貴重な穏やかな表情だった。
規則正しい呼吸に合わせて微かに胸が上下している。
やや薄目の唇がほんの少しばかり開いていて、何だか色っぽささえ感じるなぁ…と、アレンはしみじみと思った。
神田の寝顔を見る事は、幾度か共寝していても一度も無い。
いつもいつもアレンよりも後に寝て、朝はアレンよりも早く起きる。
どうしてかと言えば、神田によって半ば強制的に眠らされてしまうからだ。いや、眠らされると言うよりは気を失ってしまうというのが正解だ。
特に任務で擦れ違いが続いた後などは、翌朝は起きあがれない事も有る。
それだけ、神田が自分に執着している…と、うぬぼれたくなる程だ。
そして、そんな朝はいつもより優しい。
身体は辛いけれど、心は満たされてしまう。
――こんな綺麗な顔して…実は物凄くスケベだなんて、誰も知らないんだろうなぁ…。
彼は一見、ストイックに見えるから。
アレンの視線が、神田の顔から髪へと移る。
手触りの良い、サラサラとした黒髪。
草地の上で無造作にうねってる髪に手を伸ばす。
起こさないようにと注意しながら、触れる。
体勢を変えてアレンは地に膝を着くと前屈みになり、その指先に絡めた黒髪の感触を堪能した。
少しばかり緊張して、思わず息を殺してしまうのは致し方ないかもしれない。
アレンは今、ちょっとした悪戯心と、神田に触りたいという気持ちが膨れ上がってしまっているのだから。
神田を起こさないままに、どれ程の自分の欲求を満たせるか。
それは或る意味真剣勝負なのだ。