短編@

まだ手放せない
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お願い、もう目覚めないで。起きたらきっとまた始まる。愛と暴力の嵐。でも目覚めてほしいと願う私もいるのは確かで。
殿方のたてる寝息は幼くて安らかで、柔らかい子守歌なのに、手荒くかき乱される心。壊れるならどうか音の速さでと目をきつく瞑って。ひそり涙していると、どうした、悲しい気持ちは俺が全部拭ってやるよ。涙を掬う柔らかな指先。日暮れが近付くにつれ狂っていく殿方が見せる優しさ。
ほら、また、好きが募る。
目覚めてしまうと好きが止まらなくなる。だから目覚めないでいてくれたら、痛みだけ抱えて殿方を嫌いになれるのに。
朝日に透けて金色に輝く長めの茶髪。黒曜石みたいに強い意志を秘める瞳。
好きなんて殿方がはにかむから。
どんなに殴られても、





まだ手放せない
愛情なんて名ばかりの依存。


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