オリジナル

□Cruel moon〜7〜
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それから1週間たった日のことだった。

体育祭を明日に控えて学校中が活気づいていた。

どうにか凛子も体育祭には参加できることになった。

だが、やはり、リレーや徒競走などスピードを要求される競技には参加することができない。

凛子は、それを残念に思っていたが、そのかわり一生懸命、クラスメイトたちを応援しようと心に決めていた。



高校の体育祭には父兄は、あまり多く見られないのだが、樹は母校ということもあって見に来ることになっていた。

総一郎とはあの日以来、口をきいていない。彼の方も凛子の断固たる決意のほどを感じているのか、話しかけてくることもなかった。

一方、香山とはあの日、一緒に帰って以来、徐々に距離が縮まってきている気がした。

香山に携帯のメールアドレスを教えた日から毎日のようにメールのやりとりをするようになった。

それは、他愛のない内容がほとんどだったが、文章の端々に彼の凛子に対する好意のほどが見え隠れしていた。

凛子もそれに気づきはしていたが、香山のことを特別に感じていたわけではなかった。

いい人だとは思うけれど、それ以上の感情を香山に対して持つことはできなかった。

だから、その日の放課後、いつものように香山と並んで歩いている時、不意打ちのように、つきあってほしいと告白された凛子はすぐに返事をすることができなかった。



「僕の気持ちは気づいていると思うけど・・・僕とつきあってくれないかな?」

「え・・・・・・」

凛子は内心、しまったと思った。

なるべくそういう方向に話が向かないように心がけていたからだ。

凛子は、どう言えば、香山を傷つけずに断ることができるか、と考えを巡らせた。

なかなか応えようとしない凛子に香山は近くの公園で話をしようと誘ってきた。



公園には夕暮れということもあって、人影はまばらだった。

いつも遊んでいる小学生たちは5時のチャイムが聞こえてくると、蜘蛛の子を散らすようにバラバラといなくなってしまった。

人気がなくなった公園のベンチに腰をかけるよう言われた凛子は、缶コーヒーを買いに行った香山の帰りを待ちながら一向に断りの文句が浮かんでこないことに苛立っていた。

香山を断る理由が見当たらない。

優しいし人望もあるし頭も良い。性格も、まあ、いい方だと思う。ここで、凛子が『まあ』とつけたのは、以前、総一郎に対して嫌味を言っていたからだが、今となっては香山がああいう態度をとったのは、当たり前だと思っている。

だから、この一見、何の非の打ち所がない香山を不服に思っては罰が当たると思うのだ。

いや、不服になど思っているわけではない。

(でも・・・)

凛子は無意識に靴先で砂を蹴りながら考えた。

(いい人だけど・・・なんとなく違う気がする)

それは一種の勘のようなもので、説明のつくものではない。

凛子は深いため息をついた。

するとバッグの中で携帯が振動を始めた。

凛子は携帯の着信画面を見ると安堵の表情を浮かべた。

なんてグッドタイミングだろう。

凛子は携帯を耳にあてた。

「もしもし、お兄ちゃん?」
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