◎Othar◎
□穢れし、呪われた王よ・後編
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ギクシャクした空気を纏いながらも、変わらずザックスはレノの傍にいたし、レノもそれについて文句を言ったり、嫌な顔をしなかった。
元はといえば自分は彼の護衛に任じられたのだから、否応なし…というかそれが互いの義務でもあるのだ。
「ヴェルド主任、レノさん、それからザックス。お先に失礼します」
タークスの仲間の一人である、くしゃくしゃ頭の若い青年が、ザックスの後ろをすり抜けて本部を後にしていった。
「お疲れ様でした」
「ああ、ご苦労だった」
ヴェルドの後に続き、レノとザックスも決まった挨拶をする。
…意外だったのは、周りが自分たちの様子に気付いていないらしい事だ。
両者とも表面上は平然を装ってはいるが、こうなんというか…仲違いした者同士の微弱な険悪な雰囲気を、誰も感じとっていないように見えた。
気を遣っている、とかそういったものではない気がする。
誰ひとりザックスやレノに対して態度変えた者はいない。
「レノ、お前も上がれそうか?」
本部はいつの日かと同じように三人きりになる。
青年が去った扉から目線を移し、ヴェルドはパソコン越しにレノを見遣った。
「頑張ります、と」
レノも柔和に応えはしたものの、そこにあまり感情表現は見受けられなかった。
(…でもレノは、誰に対してもわりとあんな感じだよな)
常に孤高で、誰を相手にしても心を開かず、他人と距離を置きたがって…。
(―――!)
そこで気付いたのだ。
最初からだと。
ただ一人ヴェルドを除いては、皆最初からレノに対して一線を置いているのだ。
レノの方もまた然り。
本来仲間が沢山いるこの場で、ザックスは彼の笑顔を一度たりとも目撃した事がなかった。
―レノは…ずっと独りなんだ。
漸く笑ってくれるようになったのに。それを壊し、レノの信頼を裏切ったのは紛れもなく自分だ。