◎Othar◎
□穢れし、呪われた王よ・後編
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「――レノ」
散々悩んだ末、ザックスは極めて抑えた躊躇いがちな声音で、彼の名を呼んだ。
「ッ!」
すると、こちらに背を向けた華奢な肩がびくりと跳ね上がる。
その反応に胸への痛みを覚えながらも、絶対にそれを態度には出すまいと決めていたから。
「明日のスケジュール、教えといてくれないか?」
これまでと同じように、普段通りの振る舞いを装いつつ近づく。
が、距離が縮まれば縮まる程、彼…レノの身が小さく萎縮していくのが分かった。
「俺もお前に合わせて出勤するからさ。な?」
いま、自分は彼の心にどんな風に捉えられているのだろう。
想像しただけで切なく、哀しく、己が憎くなる。
彼自身を力でねじ伏せ、性的な暴力を加えたザックスに、彼は何を…。
数日前。
今考えれば、どうしてあそこまで歯止めが効かなかったのかと自分自身でも戸惑うくらいだ。
凶暴な欲に支配されレノに無体を強いた結果、彼は涙を流しながら絶叫し、そして気を失った。
その後濡れタオルで体を拭ってやり、意識が戻るのを待ってはいたが、目を覚まして以来レノの反応はずっとこんな調子だった。
「ああ…分かった」
一見、何事もなかったように返事はしてくれるものの、傍らのザックスと決して視線を合わせようとはしない。
声もやはり幾分か堅い。
カタカタとキーボードを打って、プリンターから一枚の用紙を印刷した彼は、そのまま流れ作業のようにデスクに置いた。
「これに書いてあるから」
「……サンキュ」
目の前に置かれた紙を見れば、簡易タイムスケジュールのような表が書かれている。
…いつかこの手の質問をザックスがすると分かっていて用意したような雰囲気だ。
小さな感謝の言葉に応えることなく、レノは再び作業の続きに入ってしまった。
(レノ……)
読心術を持つ彼へ胸の内で呼び掛けてみるも、やはり返答はなかった。