◎Othar◎
□名もなき空
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(ったく…俺らしくねーな)
女々しくなり始めた思考を振り払うように、与えられた任務に集中しようと決め込む。
このご時世、天下の神羅に忍び込むなんてイカレた行為で、面倒な仕事を増やしてくれやがったのはジュノンを根城にしているギャング一味のリーダーらしい。
存在くらいは知っていたが、流石に神羅を脅かす程の勢力もないだろうから放っておいたのだが、生意気にも勝負を挑んでくるとは。
大変な愚か者だが、つまり、そこそこ力と自信のある“リーダー”なのだろう。
ギャングといえども、世界を統治する企業の力と恐ろしさを考えずに向かって来る程無知ではないだろうから。
磨き抜かれた床を革靴でコツコツと音を立てながら歩いていく。
それにしても只でさえ今はアバランチ(反神羅勢力)との対立が激化して、こんな時間まで残っていなければならないというのに、全くはた迷惑な奴だ。
たっぷりと懲らしめてやろう。
階段で一階のエントランスに降り、物陰に隠れつつ静かに人の気配を探る。
…いる。バイクが展示してあるエリアだ。
息を殺しゆっくりと忍び寄る。
逃げられては元も子もない。
奴は神羅が現代で出来る技術の集大成とも呼べる、最新モデルのバイクの機体の前に…いた。
こちらに背を向けてしゃがみ、バイクを一心不乱に眺めている。
「おいお前。ここがどこだか分かった上で侵入したのかな、と」
「ッ!」
本当は背後から奇襲をしかけても良かった。その方が確実だし。だが、奴が俺を前におののく姿が見たかった。
何でだかその時は、そんな残虐な気分だった。
「――!?」
しかし当の本人は、声をいきなり掛けられて驚きはしたようだったが、肩をすこし上下させただけで悠然と立ち上がり振り向いたのだ。
その男の仕草に、態度に、俺の方が眉を寄せた。
「…お前、誰?」
特に驚きも逃げる様子もなく、男は静かに一言吐いた。
訝るような低いテノールの声。
…この野郎。
俺様に“お前”とはいい度胸じゃないか。