◎Othar◎
□名もなき空
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【Side:レノ→ロッド】
「彼女とどうやって知り合ったんですか?」
資料を纏めなければならなく足を運んだコピー室で、超が付くくらい、恋愛話が大好きなイリーナに突如訊かれたその質問。
まあ、ここでで云う彼女とは=ロッドな訳なのだけれど。それをわざわざ明かす必要性は全くないので、イリーナだけには『彼女』という事で否定しないでおく。
「あー?何だよいきなり、と」
「いいじゃないですか、教えてくれたってぇ〜」
他人の色恋沙汰は好きだが、いざ己のこととなるとプライベートに入って欲しくない、縄張りのような拒否感があって、あからさまに嫌な顔をしたらイリーナはむくれて己の作業に戻って行った。
馴れ初め、か。
俺とロッドの出会いなんざ、素晴らしいどころか悪い意味で運命だったと思う。
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「レノ、侵入者だ」
時計の針が日付を跨いで数時間。裏口を守っていた警備員を強硬突破で侵入していった者がいると連絡があり、それを受けた主任が真っ先に俺に声を掛けたのだ。
「それをどうして俺に振るんですか、と」
おどけた表情をしながらも、その理由は自分でもある程度解っていた。
タークスに入ってそう長くはないが、この部署…いや、社が求めている判断を的確に、己の考えで結果に繋げられる。そしてそれに伴う実力もそこそこある。
信頼されているのだろうと、自負している。
聞く側の人間からしたら自惚れなのかもしれないけれど、自分が期待され重宝されているのは何となく感じるものだ。
「今更わざわざ言う必要もないだろう?」
しかし同時にその信頼に応えなければ、という義務感も常々俺に絡みついている。
「…そうですね、と」
ニヒルに笑んで、鍵付きの引き出しから愛用の三段式警棒を掴み立ち上がる。
その警棒…ナイトスティックで自分の肩を叩いて弄びながら俺は本部を後にした。
―………。
全く、殺すも生かすも俺次第ってか。
当然そこには、神羅の犬としての使命を背負った上でだが。
誰にも言った事はないし、それらしい事を漏らしたつもりもないけれど。
正直、たまに思う。
少し、重いと。
必要とされるのは神羅の犬で自分ではなく、その期待を十二分に背負う使命への憔悴と。
それでも希望に応えなければと思う自分への嫌悪感と。