短編 3

□歌の外で恋を、
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貴方と重なった声が、
こんなに綺麗なものだと、早く知りたかった。


私と貴方と、重なる音が一つの和音を紡ぎだして、二人の距離を縮めたように、まるで。




私がぼんやりと口ずさんでいた時、誰も居なかった教室に、一人が歌声と一緒に入ってきた。

私が歌うソプラノに、重なってくるダブルボーカルの低音パート。
低音でも、ボーイソプラノに近い旋律だから、彼がオクターブを下げてでも歌えていたことにびっくりした。


今まで独りぼっちだった私のソプラノに、ハモリが生まれた。





「…えへへ、」

「…クス、どうしたのさ」


歌い終えて、頬をかくように照れる私達。
心地いい気恥ずかしさ。



「不二君、これだから、私、歌うのをやめられない」


この歌のハモリはね、本当に素敵。

でも、主旋律以外を歌えるほど聞き込んでる人はいないの、マイナーな歌だから。


私が一端を担ってるなんて思えないほど、綺麗な歌になった。楽しかった。
もしかして、君と歌ったから?
なんて、ね。


「それはよくわかるよ。
君がときどき口ずさんでるのを聞いて、僕もこっそり歌ってた」


「誰もいないから、気にしないで歌えるね!
ふふ、こんなことで笑っちゃうなんて、私は変だな」


「それもちょっとわかるよ。
僕も今、君と同じ気持ち」


もう一度、私は歌うために口を開く。
今度は、始めから二つの旋律があった。



思いをこめて歌うとね、
この歌詞の、恋人同士の掛け合いに感情移入しちゃうの。

彼に、恋をしている気になってしまうの。

ハモリの部分で、もう互いをすべて知ってる気になってしまうの。

歌が終われば、そんなものはなくなるんだけどね。




でも…、

歌の外でも、貴方に恋していいですか?


机に座り、遠くをぼんやりと見つめ歌っていた私が視線を向けると、

私と同じ気持ちだと豪語した彼は、こちらこそとばかりに私を見つめて笑っていた。



09.06.06

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