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□ハント
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この人は何度私の元に来るのだろう。
泣いていると毎回やってくる。
最初は彼を悪く言われたので取り合っていなかったが最近この男の言うことは無視できなくなってきていた。
毎回必ず軽口のように言う私を口説いている方の言葉じゃない。もうひとつの───……
「お前は騙されてるんだよ ざくろ」
『……』
「可哀想に こんな可愛い女の子を裏切るなんてなぁ?」
『…(うるさいな…)』
「ほら、俺の胸に飛び込みに来てもいいんだぜ子猫ちゃん?」
以前なら勝手なこと言わないで、と怒っていただろうがどうも最近彼の様子が変なのだ。
いや、でも信じてあげなきゃ。私が。
そう机の上で頭を抱えていると例の男……シグバールと名乗ったか…が明らかに距離感を無視した近さで近づいてきた。
舌打ちをして距離を取ると彼は話し出す。
「変だよなァ?最近仕事で忙しいって会わない、お前のあげたプレゼントはなくす、おまけに──……」
そう言って私に写真を差し出した。
「他の女と親しげにするし…なぁ?」
『…!』
いや、きっと。きっと理由があるのだ。そうだ。
『適当なこと…言わないで…』
「適当なこと?」
彼は写真をヒラヒラと振った。
「俺が何を言おうとこの写真が事実を物語ってるってハナシ」
『そんなはずない』
「じゃあ聞いてみるんだな?そいつの口から」
……
私は気がつけば写真を持ち部屋を飛び出していた。
────────────────────
『……ねえ、これどういうこと…?』
「!その、それは」
『……!』
「その女に騙されたんだって 何も無かった」
焦った彼の反応が悲しかった。
本当だったんだ。
私信じてなかったのに。
『……なんでそんな焦ってるの……』
「いや、違くて。好きなのお前だけだから」
『もう信じられない……』
「待って、本当に違うんだって」
『でも、行ってないとは言わないんだね』
「……」
『もういいよ……さよなら』
────────────────────
『言うこと聞いておけばよかった、私裏切られちゃった』
帰るなり泣きながらシグバールの胸に縋ると彼は優しく頭を撫でてくれた。
あの男とは違って。
私にはただ泣くしか出来なかった。
そんな私を彼は優しく見守ってくれた。
『私……私……』
「ああ…落ち着け、大丈夫だ」
『あぅ……』
「うん…残念だったな…」
『私……これからどうしよう…』
「俺と一緒に来るか?」
優しくそう言われると頷くしかなかった。
────────────────────
『ね…もっとしてくれないと寂しいよ…』
そう不安そうにする彼女に口付けをしてまた行為を再開する。
ああ…綺麗だ。
あの時、男の周りにざくろの悪い噂を流しておいたのだ。
それでそこに適当に良い女を見繕って渡してやったら勝手に押し流されただけ。
一目見た時からざくろに惚れていたから。
そしてそれ以来忘れられなくなった。
綺麗な色の髪と、憂いげな雰囲気。
この俺が、だ。
卑怯?俺が?……悪いのは信じられずざくろを愛せなかった男の方だろ。
馬鹿だよなあ。こんなに可愛いのに。
肌はきらきら光ってるし…顔はいつも不安げにしていて神秘的だし…
『何考えてるの……』
「いや……フフ」
『やだ…他のこと考えちゃやだよ……』
「よしよし…ん…可愛い子猫ちゃんだ…フフ」
あれから毎日任務に帰ってはすぐこうして抱き合ったりそれ以上のことをしたりしている。
俺から身体を求めたりはしないがこの子が抱いて欲しいと不安そうにねだるのだ。
そんなに不安そうにされたらついつい抱いちゃうんだよなあ。
彼女がきゅっ、と俺の腕を控えめに掴んで言う。
『いっしょにいてね……』
「フフ……」
『私より可愛い人とどこかにいっちゃやだよ……?』
お前より?可愛い女?笑えてくるな。
いるんなら俺が見てみたいよ。
「それならちゃんと良い子に俺の言うことを聞かないとなあ?」
『ぁ……う…』
「フフ…ん?出来ないのか?」
『……』
「じゃあ他の女と遊んでこよっかなあ」
身体を起こして後目にそういうとざくろは急いで俺を引き止めた。
『な……なんでもする、なんでもするよ…!』
ああ、良い子だ。
震えた声で彼女は呟いた。
『だから……行かないで……』
「……本当に…?」
『……うん…』
「フ…良い子だ」
────────────────────
それから彼女は、俺の言うことをなんでも聞くようになった。
俺が過激な服を着ろと言ったら着るし、喜んで俺に尽くすし、流石に薬を飲ませる時は少し抵抗していたが、それはそれでいじらしくて可愛げがあった…フフ、あの夜は燃えたなあ……
そうそう、あの男がざくろの居場所を教えろと言ってきたっけ。
別に消しても良かったんだがざくろとの最中の写真を見せたら突っかかって来たっけ。笑えるな。
そのまま放置した方が面白そうだから放っておいた。
そうだ今彼女は俺のものなんだ…悪いね。
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