長編小説
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「アダム」
「はい」
サカズキに呼ばれて本を持って近づいていく。この時間こうして名前を呼ばれるときは大抵筋トレに付き合えということだ。
やはり筋トレで合っていた様で、腕立て伏せのポーズをとったサカズキの上にのしりと胡坐をかいて座る。サカズキはそのままアダムが落ちないか確認すると片腕を背中に回し、片腕だけで腕立てを始めた。
「数えますか?」
「いい、本でも読んどれ」
もうこの筋トレも慣れたもので、アダムもバランスを取りながら本を開いて読み始めた。初めは人の上に乗るなんてとか、乗ったら潰れるんじゃないかとか色々言って断ろうとしたが、お前一人の体重じゃぁ何も起きん、とはっきり言われてしょんぼりしながら乗ることを承諾した。サカズキ曰く、もう少し重い方が良いが、ボルサリーノは途中で飽きて降りてしまうから仕方がない、とのこと。他に上に物を乗っけたほうが良いんじゃないかと考えたりもしたが、筋トレ後にスッと降りるだけでいい人間の方が楽なのだろうと思うことにした。
ちらり、と下で腕立てをするサカズキに目をやる。腕はパンパン、背中はバキバキ、胸筋むっちり、腹筋バッキバキの体。どうやったらここまで筋肉を育てられるのだろうか。自分の胸と腹に手を当ててみても、細マッチョレベルだ。サカズキはすでにマッチョである。
「……」
しかし、ロジャーもエースも細マッチョくらいの筋肉量だった。ならば自分もそれほど筋肉はつかないのだろう。いや、付け過ぎないほうが良いのかもしれない。ムキムキは憧れるが、自分の顔に似合わない量の筋肉は気持ち悪いだけだ。
せめて衰えないくらいの筋トレを続けて少しずつ成長させよう、と一つ頷いてアダムは本へと視線を戻した。
何十分続けたのか本を半分読み終わる頃ボルサリーノが部屋へと戻ってきた。
「まだやってるのォ?」
「もう、終わる」
サカズキは最後、とばかりにゆっくりと腕を曲げるとアダムに降りるように告げる。床が濡れないように敷いたバスタオルはすでに汗でべったりと床にくっついており、サカズキは新しいタオルで床を拭くと立ち上がった。
「わしは風呂に行って来る」
「了解」
サカズキはボルサリーノに何か目配せをするとそのまま風呂場へと歩いていった。
「じゃあ、次はわっしの筋トレに付き合ってくれる?」
「はい」
悪いねェ、と言うボルサリーノと、先程のサカズキの様子に少し違和感を覚えたが、そこまで大したことじゃないだろうと思っていた。