長編小説
□1-8
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「外出許可取ってあるから一緒に出かけよォ」
「……え?」
朝早くにポンポン、と肩を叩かれて起こされる。目を開けるとニコニコと笑うボルサリーノがこちらを覗きこんでいた。
「外出許可……?」
「うん。最近時間に余裕も出てきたし、リフレッシュしたいよねェ?」
確か入校説明会の時、外出する際には外出許可を取る必要があるとか言われた気がする。外出なんてほぼしないだろうと思い聞き流していたが、そんなすぐに取れるようなものなのだろうか。
ボルサリーノは笑みを浮かべながらも、まるで拒否権などないと言わんばかりに同意を求めてくる。リフレッシュよりも体の休息をしたい、とは言えず、そうですね……と苦笑いを溢して起き上がった。
「おはよう」
「おはようございます」
ベッドの横にはサカズキが立っており、着替えている途中だった。あの様子だとサカズキもボルサリーノに起こされたのだろうか。
「わっし行きたいところあるんだよねェ」
「こんな朝早ぅからやっとるところなんぞあるんか」
言葉にトゲがある。やはり叩き起こされたようだ。ムスッとしている表情に思わず笑みが浮かぶ。いつも起床ラッパが鳴る前に起きて準備しているサカズキも、本当は寝起きが悪いらしい。
「朝は散歩だよォ。まだこの島ちゃんと見れてないでしょォ」
言われてみればそうだ。学校があるから、と受験をしにきた時も入校する前もした後も、あまり時間がなくこの島を回ることが出来ていない。観光地としても有名だとか何とからしいのに勿体無いことをしていたかもしれない。
「で、ご飯食べがてら買い物しよォ」
「良いですね」
ちょっと顔洗ってきます、と部屋を出る。そろそろ新しい服も欲しかったところだ。アダムはいそいそと準備をするのだった。
「アイス美味しいねェ」
「そうですね」
久しぶりに甘いものを食べた気がする。アイスキャンディを3人で購入して食べていると、サカズキが食べ辛そうに手を忙しなく動かしていた。アイスに目をやれば溶けてボタボタと地面へとこぼれているところで、思わずぎょっとしてしまった。
「……サカズキ、垂らしすぎじゃない?」
「こいつが勝手に溶けよるんじゃぁ」
勝手に溶けていくアイスが嫌なのか、手が汚れるのが嫌なのか、眉間に皺を寄せている。もうほとんど溶けてなくなったアイスを口に放り込むと、アイスのついた手をパッパッと払った。
「体温高いんですかね」
「マグマグの実の能力者だからだと思うよォ」
そうアダムとボルサリーノが言うとサカズキは嫌そうな表情のままこちらを振り向いた。変なことは言っていないはず。自主練習の際倒れた自分を引っ張って立たせてくれるサカズキの手はとても温かいし、大きくて頼りがいのある手だ。
「はい、ぼくの一口あげます」
アイスが早くなくなって可哀想だという思いと、いつも遅くまで訓練に付き合わせているお礼も兼ねて、とまだ半分以上残ったアイスを口元まで差し出した。一度ウッと困った表情を浮かべたサカズキも、アダムが嬉しそうに笑うので仕方なくそれに噛り付いた。
「わっしにも頂戴〜」
「ボルサリーノさんはまだあるじゃないですか」
アダムのアイスをなぜか欲しがるボルサリーノの手にはまだアイスが握られている。なぜまだ残っているのに他のを欲しがるのか。
「違う味でしょォ? それも食べてみたいんだよォ」
「じゃあ交換しますか?」
はい、と持ち手側を指先で摘んで渡せば、ボルサリーノも残ったアイスをアダムへと渡してきた。
「はい、どうぞ」
そして再びアダムはサカズキの口元にそれを差し出した。
「もういらんぞ」
「だってほとんど溶けちゃって食べれてないですよね?」
どうぞ、と声に出して笑うアダムを見つめてサカズキは恥ずかしそうに目線を逸らすと、先程より小さく噛り付いた。
「ちょっとォ、なんで2人でいちゃついてるのォ?」
「な、いちゃついてなんぞおらん!」
見てるだけで暑くなるから止めてよォ、と笑うボルサリーノとは対称に顔を赤くして怒るサカズキ。それを見てアダムは首を傾げながらも仲が良いなぁと笑うのだった。