長編小説

□1-5
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 午前6時。どこからか流れてくるラッパの音で目が覚めた。そうだ、今は寮に住んでいるのだった。

「うるさいねェ、何事ォ?」
「起床ラッパじゃぁ」

 ふと横を見ればすでに支給された制服に身を包んだサカズキがいた。

「10分後に点呼があるけぇ、急いで着替えたほうがええ」
「ええ〜、起こしてよォ」

 それを聞いてアダムは飛び起きた。軍はそんなことをするのか、知らなかったではすまされないだろう。ばたばたと洗面所に駆け込んで顔を洗い、パリパリの制服に袖を通した。

「んしょっと」

 ボルサリーノはのっそりと降りてきて廊下へと出て行った。かと思えば一瞬で見えなくなった。思わず声を上げると、サカズキがあいつは悪魔の実の能力者じゃけェ、と教えてくれた。もう悪魔の実を食べてるのか。
 アダムが呆然としていると、サカズキも悪魔の実を食べていると申告してくれた。一緒に学校に入学したのに、すでに置いていかれているような感じがする。


 寮の前のスペースが空いていたのは点呼のためだったのか。制服に身を包んだアダムたちが寮の前に出て行くと教官らしき人が立っていた。何号室か聞かれ、答えると待機するように指示された。
 それから遅れて寮からぞろぞろと別室の人たちが出てくると、教官は声を張り上げて怒鳴った。あまりにもだらだらとしすぎていたのだろう。怒られていないこちらまで怖い。
 そして全員が並んだ後、点呼が始まった。
 一号室、二号室、と呼ばれていき、声が小さいと怒鳴られる。そしてもう一度返事をさせられる。軍ってこんな厳しいのか?

 そして自分たちの番になり、サカズキの名前が呼ばれた。

「サカズキ!」
「はい!」

 とても良い返事だ。腹から声が出ている、と言うのだろう。その次はボルサリーノだ。

「ボルサリーノ!」
「はい」

 その声はサカズキよりは小さかったが、普段の間延びした声からは想像できないくらいきっちりとした返事だった。

「アダム!」
「はいっ!」

 そして呼ばれる自分の名前。ちゃんと呼ばれることも分かっていたし、心の準備も出来ていたため、上手く返事が出来た、方だと思う。

「全員揃っているな。分かっているとは思うが、本日は諸君らの入校式が行われる。各自朝食と清掃を行い、0800(マル・ハチ・マル・マル)には大講堂前に集合すること」

 以上! 解散! と告げて教官はアダムたちのほうへと歩いてきた。

「サカズキ、ボルサリーノ、アダム」

 そう呼び止められて教官のほうを向く。

「諸君らは入校式の際に一言ずつ決意表明する手筈となっている」

 名前を呼ばれたら返事をし、立ち上がって表明の後、着席すること。
 そう言って教官は去っていった。
 目立つことはあまり好きではないのだが、大丈夫だろうか。緊張しているのが分かったのか、ボルサリーノがポン、と肩に手を置いてきた。

「ただ頑張りますって言っておけばいいんだよォ」


 そして入校式、まわりには信じられないほどたくさんの人がいた。教官らしき人から先輩であろう、離れた席に座る人たち。そして、自分の周りにいる人たち。こんなにたくさんの人の集まる場所に来たことなどない。緊張でどうにかなってしまいそうだ。
 体の震えが止まらず顔を赤くしていると、サカズキがボソッと深呼吸せぇ、と呟いた。
 その言葉を聞き、ゆっくりと息を吸った。するといくらか震えはマシになった。

「ありがとう」

 こっそりとお礼を言えば、小さくあぁとだけ返事をしてくれた。


 そして、何とか無事に入校式を終えた。決意表明は何を言ったのか全く覚えていない。緊張してしまったせいだろう。しかし、終わった後にサカズキにようやった、と褒められたことからなんとかやり抜けたようで安心した。

「アダム、顔真っ赤で可愛かったねェ」

 しかし、ニコニコと笑うボルサリーノにそう言われて安心から一気に恥ずかしさのほうが勝ってしまった。こういうのは初めてなのだから許して欲しい。

「本日は明日からの課業に向け、班割り、必要教材の支給、各班ごとの時間割を定めていく」

 教官についていき、名前を呼ばれて班分けされる。勿論ここでもサカズキとボルサリーノと一緒だった。他にもあと3人同じ班になった人たちと挨拶を交わし、教科書を受け取ったり時間割を渡されたりとその日1日はとても忙しかったが、これから少しでも色々なことを学んで海軍に入隊し、殺すには惜しいと思われるくらいの人間にならなくては。
 アダムは固く決意をしたのだった。
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