長編小説

□1-4
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 入学が無事に決まり、とりあえず寮に住むことになった。ここで集団生活に慣れるのもまた勉強だとサカズキに言われてそわそわしてしまう。島はそれほど大きくもなかったし、田舎だったためほとんどの人が顔見知りで、知らない人とこれからずっと一緒だというのはなかなかに緊張する。

「特待生の3人はこの部屋ね」

 寮母さんに案内されて4人部屋に通された。勿論、サカズキとボルサリーノも一緒だ。成績ごとで部屋分けがされるらしく、これは変更のしようがないのだと言う。

「ルールは扉の裏側に貼ってある紙を良く見ておいてね」

 あとは好きに使って、と言い残して寮母さんは去っていった。
 部屋の中には二段ベッドが2つ、奥に長い机が一つ。先に案内されていた一般合格の人たちの部屋よりは広いのではないだろうか。

「どこがいい」
「わっし上がいいなァ」

 荷物をガラガラと運びこむ。ここで4年間、サカズキとボルサリーノと寮生活を送るのか。とても不安だ。
 ボルサリーノは荷物を二段ベッドの横へ滑らせると階段を軽やかに駆け上がっていった。元気だな、なんて思っていると先に部屋の中にいたサカズキがこちらを振り返った。

「アダム、お前は」
「ぼ、ぼくは下で……」

 そそくさとボルサリーノが上ったベッドとは反対のベッドのほうへ移動する。ほうか、とサカズキは一言頷くとボルサリーノのベッドの下に荷物を放り投げた。

「楽しみだねェ、学校」

 ひょこっと上から身を乗り出して見下ろしてくるボルサリーノを見上げ返し、はは、と乾いた笑いをこぼした。ぶっちゃけそこまで楽しみではない。海軍に入ろうと思ったのも、ロジャーの息子だから殺せと理不尽に言われない様にだし、この方が収入も安定するだろうと思ってのことだ。

「学校なんぞ、はよう卒業して海軍に入隊したい」

 サカズキは荷物を漁りながらそう言った。そこまで言わせる何かがあったのだろうか。
 まぁ、大将にまで登りつめたくらいだし、実力も思想も凄いことだけは確かだ。

「え〜? わっしは海軍に入るまでにちゃんと学んでおきたいけどォ」
「誰も勉強せんとは言うとらん」

 二人で会話しているのを暫し聞いてから寮母さんが言っていたルールとやらが気になって扉まで歩いていく。
 扉の裏側には部屋を使う上でのルールと、寮生活のルールが書かれた紙が貼られている。
 布団は部屋ごとに決まった曜日に出すこと。ご飯の時間は何時、風呂は部屋ごとに何時から何時まで、消灯は何時、等と事細かに書かれており、これが集団生活か……と妙に感心してしまった。

「まだ夜まで時間あるし、散歩にでも行かない?」

 トントン、と上から降りてきたボルサリーノがそう言うがサカズキは首を横に振った。片付けが終わっちょらん、と無造作に置かれたボルサリーノの荷物を目線で指し示した。

「帰ってきたらやるよォ。ちょっと学校のほうも見てきたいし。ね? アダム」

 急に名前を呼ばれて飛び上がる。

「えっと……はい?」
「ほらァ、アダムも校舎見に行きたいって」
「……少し待っとれ」

 サカズキは2対1の多数決に負け、ため息をつきながら荷物をまとめた。
 寮母さんに夕食には戻ります、と一言告げて3人で寮を出る。寮を出て少し歩けば、明日から通う学校がある。ほぼ目の前といっても過言ではない。
 建物は厳格な雰囲気を醸し出し、身が引き締まるような気がする。前世では病院の外に出たことがなく、学校というものにも行ったことがない。テレビや本でしか知らない世界に飛び込むのだ。不安と興奮が入り混じって変な感じがする。

「そういえば明日の入学式で一言ずつ決意表明するらしいけど何言うか決まったァ?」
「え?」

 ドキドキしていたら突然そんなことを言われて一気に顔が青ざめた。

「あれ、言ってなかったっけ?」

 首を傾げるボルサリーノと、伝えてなかったんか、と怪訝そうな顔をするサカズキ。それ、伝え忘れてちゃ駄目な奴でしょ……。
 絶望に似た表情をしていたらサカズキが一緒に考えちゃるけぇ、と助け舟を出してくれて寮に戻る頃には何とか言うことも固まってきた。ほとんど志のようなものがなかった自分にとってサカズキのアイデアはとても有難かった。

「おやすみィ」
「おやすみ」
「おやすみなさい」

 明日は早いからと言ってサカズキとボルサリーノはベッドに潜っていったが、自分はまだやることがある。奥の机に座り、手紙を書いた。勿論、母親にだ。色々心配をかけたが、なんとか入学出来たこと。特待生になれたこと。寮生活が始まったこと。色々伝えたいことを書いていたらいつの間にか消灯時間だった。
 明日ニュース・クーにお願いして届けてもらうことにしよう。アダムは封筒に手紙を入れ、ベッドに横になった。
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