リクエスト品置き場
□本音
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「行かんでくれ……」
ぎゅっとお腹に抱きついて悲しそうにこちらを見上げるサカズキさん。なぜ、こんなことになったのだったか。
それは少し前に遡る。
「サカズキさん、これ一緒に飲みませんか?」
そう言って私はサカズキさんに一本のボトルを差し出した。町の見回りの際困っていた住人の方の手助けをしたら持っていってくれと押し付けられた、バーボンウイスキー。
お酒は苦いしさほど好きではない。ビールなんて苦味しか感じられないし、なせみんなあんなものを好んで飲むのか分からない。
だが、恋人であるサカズキさんと飲むなら話は別だ。かっこよく飲んでいるところを見られるかもしれない。
そう思って仕事終わりのサカズキさんに声をかけた。
「なんじゃ、酒か?」
「はい、町の方にいただいて……私はあまりお酒が得意ではないので一緒に飲んでいただけたら、と」
紙袋を漁ってミネラルウォーターを取り出す。酒屋の人にバーボンの美味しい飲み方を聞いたところ、常温の水で1:1の比率で割るといい、とのことだったので帰りに買ってきたのだ。他にもミルクやソーダ水など合うものを選んできた。
「分かった。あとでわしの部屋で飲むとするか」
「はい。おつまみも買ってきてるのでゆっくりしましょう」
そう言って一緒にサカズキさんの部屋まで行き、聞いたとおりにお酒を作って飲んでいたのだが。
「最近クザンと仲が良いらしいのぉ」
「え? ん〜、そんなこともないと思いますけど……」
内心、これ苦いな〜、と思いながらチビチビと飲んでいると突然サカズキさんがそんなことを言い出した。
別にサカズキさんを手伝っている仕事上でお話しすることはあるが、特段仲が良いというわけではないと思う。
ただ、業務に支障の出ないよう……ごほん、間違えた。上司に失礼のないように接しているだけなのだけれども。
だがその答えにあまり納得していないのか、サカズキさんは少し口を尖らせた。え、可愛い……。
「ボルサリーノから聞いとるぞ。今度クザンと茶を飲みに良く約束をしたと」
「あー……」
そういえばそんなことも言われたような。今度お茶しようね〜、と。あれは社交辞令だと思っていた。だから予定が合えばいいですよ、とだけ答えておいた。
別に日付も何も決めていないし、約束したうちには入らないのではないだろうか。
「わしに無断で他の男と出かけるつもりか?」
「そんなことしませんよ」
じぃ、と見つめられて、それがなんだか可愛くて安心してもらおうと微笑み返す。お酒の力だろうか、サカズキさんがいつもより饒舌だ。
普段は私から話してばかりだからこれは素直に嬉しい。
だがサカズキさんは飲み始めてからなかなかの量をストレートで飲んでいるので少し心配だ。酔っているのだろう。ちょうどチェイサーも空になったところだったので水を取りに行こうと立ち上がった。
「ちょっと水取ってきますね」
「……行かんでくれ」
そして、冒頭に至る。
悲しそうに、甘えるように抱きついてくるサカズキさん。相当酔っているようだ。恋人である私にですらこんな姿を見せたことはない。
「え、っと、お水取ってくるだけなので」
「行かんでくれと頼んどるじゃろ」
「うわっ……!?」
ぐいっと引き寄せられて腕の中にすっぽりと収まる。いつも暖かいサカズキさんの体温が、いつもより暖かい。
「出来ることならわし以外の男と話して欲しゅうない。ずっとわしの傍から離れんで欲しい」
頭上から悲しそうな声が聞こえる。お酒の力とは凄い、と感心してしまった。今までこんな風に独占欲を露わにした言葉を言われたことなどない。
もしかして先程約束したのかと問い詰められたのも嫉妬してくれていたのかもしれないと気づいて押し黙ってしまう。
本音を聞けたことが嬉しくてでも恥ずかしくて、赤くなった顔を隠すようにサカズキさんの体に抱きついた。
Fin.
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