短編小説
□「慌てるところが見たかった」等と供述しており……
1ページ/1ページ
「……何か用か」
サカズキの第一声はそれだった。
「えっと……」
楓は言い淀んだ。ベッドで馬乗りになって優位なのは自分のはずなのに。
最初はただの思い付きだった。目を開けた時自分の上に異性が乗っていたら、サカズキはどんな反応をするのだろう、と。
「夜這いを、ですね……?」
しかし想像していた反応と全く異なり、視線を逸らした。「何しちょる……!?」と顔を真っ赤にして大慌てするとばかり思っていたため、怪訝そうな反応を返されてしまって調子が狂ってしまう。
「ほぉ、わしにか?」
真面目にそう返されて何も言えない。部屋に静寂が流れる。シーン、という音でも聞こえてきそうだ。いっそ笑い飛ばしてくれれば良かったのに。
渾身のギャグが大滑りしたようなこの状況に耐え切れず、ベッドから降りることにした。
「冗談です、すみません! ちょっと慌てた顔見たいなぁって思っただけなので! 忘れてください!」
部屋戻りますね! と床に足を着こうとした瞬間、腕を掴まれた。ぎょっとして掴まれた腕を見てからサカズキの方へと視線を移す。
「帰らんでもええ」
そうはっきり言われたかと思えばぐいっと腕を引かれてベッドに逆戻りした。そのまま起き上がるサカズキとは反対に、なぜか力任せに寝かせられて困惑してしまう。
「っえ?」
「わしに気があるような素振りを見せながら他の奴にも尻尾を振っちょるのを見て手を出していいものか悩んどったが」
サカズキがのしり、と上に被さるように乗りかかってきた。私が最初にしたような体勢でこちらを見下ろしてくる。
「お前から来てくれるとはな」
口角を上げてまるで悪党のような笑みを浮かべるサカズキ。もしかして、私は余計なことをしてしまったのかもしれない。
「さて……据え膳食わぬはなんとやらと言うけぇの」
「ひっ」
人をからかうときはからかう相手を選ぼう。
そう心に誓った楓だった。