短編小説

□やっぱり近いほうがいいよね
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「この前戦闘丸くんがねェ」

 廊下で黄猿大将とお話をしていた時のこと。
 常々思っていたことだが、黄猿大将……凄く背が高い。
 海軍には背の高い人が多くて感覚がおかしくなりがちだが、私は女性の平均身長くらいはある。のに、見上げなくてはならない。そりゃあ、大将陣なんて身長が三メートルあるのだから、と言われればぐうの音も出ない。
 この際それは置いておこう。
 私が言いたいのは、黄猿大将は距離を詰めて話しかけてくるため、ほとんど直角といってもいいほどの角度で見上げている、ということだ。少し話しているだけでも首が悲鳴をあげる。

「わっしもその意見には賛成だったんだけど」

 ……少し後ろに下がってもいいだろうか。
 近いから真上を見上げるような形になってしまうが、距離を取ればその分視野が広がって首への負担も減るだろう。
 そう思って数歩後ろに下がってみた。するとそれに気づいたのか不思議そうにしながら黄猿大将は再び距離を詰めてきた。

「き、黄猿大将……」
「なんで離れるのォ?」

 小首を傾げながらこちらを覗きこんでくる黄猿大将に、近いのが嫌だから離れたわけじゃないですよ、と弁解をする。

「ただ、首が痛くて……なので、少しだけ離れてもいいですか?」
「ん〜」

 正直にそう言うと、黄猿大将は困ったような笑顔を浮かべた。それから少し考える素振りを見せると、私の手を取った。

「それだと寂しいよォ、君は違うの?」

 ふわりと笑われて顔が一気に熱を帯びたのが分かった。

「ちが、わないです……」
「良かったァ」

 この人は天然タラシのようだ。私は赤くなった顔を見られたくなくて思い切り俯いたのだった。これからも首は痛くなりそうだ。
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