儚く消えるは、夢の如く


□5章
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「わあ!!日差しがきつい!」

朝から働きづめで数時間ぶりに外に出たあゆみに、太陽から容赦ない日光が降り注ぐ。
あまりの眩しさと暑さに顔をしかめて歩き出す。

(まだ5月なのに…年々暑くなってきてる気がするなあ〜)

街行く人も、そんな太陽にあらがうべくいろいろと対策を立てているのがわかる。
サンバイザーをかぶった主婦、日焼け防止に日傘やサングラスを着用した観光客、配達途中の配送業者は袖をまくって汗までかいている。

若いからといって日焼けを無視するのは良くないかも…と改めて自身の美容への考え方を見直し、足は今回の目的地の駅に着いた。

マスターから頼まれたのはコーヒーの配達で、目的地は最寄駅の構内にある駅員がいる事務所だった。
この季節になると決まってアイスコーヒーを注文してくる駅員がいるらしい。

 意外にも大きな駅に届け先がわからず、近くの駅員にたずねてようやく事務所を見つけた。

足早にW事務所Wと書かれた扉まで歩くあゆみの横では、キヨスクの従業員がみだれた新聞を置き直している。
新聞の見出しに書かれた
W東城会内部抗争!!Wの文字が一際大きく踊っていた。



一週間前
「親父、あの話どうなったんです?」

真島組の黒光りするソファに浅く腰かけ、日本茶を入れながら西田が質問してきた。
質問をぶつけられた親父こと真島組組長、真島吾郎は、だらだらとテレビのザッピングを繰り返している。
気になる番組が見つからないのか、小さく舌打ちし

「なんやどこも芸能人の噂話ばっかりやなぁ〜そんなん一般人に伝えてどないすんねん!興味なんかあるかあ!!」

と呟いてタバコに火を点ける動作をした。
すかさず西田が火を点ける。
離れた場所で火を灯し、消えずに咥えたタバコの前に出す動作から、手慣れているのが容易に伺える。

西田が点けたタバコを一服吸い、先程ぶつけられた質問に返事をしてくれるのかと期待する西田に、吐き出した煙を吹きかけながら真島は言った。

「どの話や?」

気に入った番組が見つからなかった為か、機嫌が悪い事に気付いた西田だったが、今更はぐらかすのもさらに機嫌を損ねるかと考えたのち、仕方なくもう一度同じ質問をぶつけた。

「ああ、あれか……」

さらに怒りをぶつけるわけでもなく、ただ静かに声のトーンを落としただけの真島に少し驚きながら次の言葉を待つ西田。

「連絡つかんかってん。携帯鳴らしたんやけどな……使われてないってアナウンス流れたわ…」

(ああ、それで怒る前に落ち込んだのか…)

真島の感情を汲み取ったよく出来た部下は、励まそうと命一杯頭をフル回転して言葉をつむいだ。

「携帯壊れたとかちゃいます?よくトイレに落とす話聞きますよ!それか最初から登録間違えてたとか。」

「昔からこの番号にかけとるわ!それにこの携帯に変えてからもかけた事あるしのお。」

「…………じゃあ壊れたんですって!誰か共通の知人に連絡取れないんですか?」

「共通の知人て………」

その時!この嫌な空気を一変して変える新たな風が事務所に舞い込んだ。
のちにこの風が嵐の前触れであったとは、この時はまだ誰も知らない。
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