儚く消えるは、夢の如く


□3章
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「おじいちゃんを知ってる人が見つかったんですか?!」

マスターからの電話は待ち望んでいた嬉しい知らせであった。
祖父の行方を知る人物に会いに行こうと息巻くあゆみだったが、あいにくその人物は今日は会えないらしく、明日ならと会う約束を取り付けてくれたとの事だった。




次の日、約束の時間に間に合うようホテルを出たあゆみは、はやる気持ちをなんとか抑えながら目的地に向かった。

祖父の行方を知る人物は、商店街の外れにある寿司屋の大将だった。
少し色落ちした青地ののれんに魚茂と書かれている。木とすりガラスで出来た引き戸にはW準備中Wと書かれた札がかけられているが、約束をしていた時間に間違いがないのを携帯で確認したあゆみは遠慮なく引き戸をノックした。
数秒待ったが何の返事もないので、ガラガラと音を立てながら引き戸を引く。

歴史を感じる店内の装飾品とカウンター。だが、きちんと整頓され、隅々まで掃除が行き届いているのが一目でわかる。

店内を見回した後、奥から一人の男性が現れた。

「君が大熊さんを探してるお嬢さんかな?」

白髪頭を短く切り、Tシャツにチノパンにサンダルといういでたちの年配男性はあゆみに近づきなおも話しかけてきた。

「マスターから電話があった時は驚いたよ〜。まさか大熊さんにお孫さんがいたとはね。しかも探してるって。」
男性はハキハキとよく通る大きめの声でそう言いながら、カウンターの椅子を引き、あゆみに座るよう促がしてきた。

一礼し、椅子に座ったあゆみは自己紹介から始めた。

「初めまして、大熊逸二郎の孫の望月あゆみと言います。
今日はお時間を作って頂きありがとうございます。」

「いや〜こんなかわいいお孫さんが探してるなんて知ったら、大熊さんも血相変えて飛んでくるやろなあ。
ああ!わしはこの寿司屋の大将やってる中谷稔いうもんや。
で…実はな、あまり知ってる訳やないねん。年に何回か事務所に出前しに行った事あるだけで…食べに来てくれたんも〜5回もないんちゃうかなあ〜。
ただ、事務所閉めて引っ越すって時に引っ越し業者の分も出前取ってくれてな、だから引っ越ししたん知ってたんや。」

「そうだったんですか……引っ越した先を訊いてはいませんか?」

「それがな〜はっきりは知らんのやわ。
ただ、京都の日本海側とかって話してたはずやねん。引っ越し業者とな。」

「京都……」

意外にもあゆみは、ここから行けない距離ではない事に喜んでいた。
元々、大阪の心斎橋辺りに住んでいるとアバウトな情報だけでここまで来た彼女にとって、事態が進展しただけで御の字なのだ。

「もっと詳しい方は知り合いにいらっしゃらないですか?」

大将は少し渋い顔をして、マスターとの経緯を話し出した。
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