儚く消えるは、夢の如く


□2章
1ページ/4ページ

 奇抜な風体の男真島は、レンガ作りの古びた喫茶店の前で足を止めた。

「ここがそうや。奥の電気付いとるからマスターいてるわ〜入ろか。」

心地よいベルの音を響かせる木製の扉を開け、二人は店内へと足を踏み入れた。

そのベルの音を聞いたからか、店内奥にある厨房とおぼしき場所から年配の男性の声が響いた。

「どちら様ですか?」

「マスター!俺や!真島や!!」

厨房から現れたマスターは、白髪まじりの髪をセンターで分け、白いカッターシャツに黒のベストを着た細身の男性だった。
人柄の良さが目尻のシワに現れている。

「真島さん!お久しぶりですね〜。何年ぶりでしょうか?」

目尻のシワをめいいっぱい刻みながら、マスターは真島に歩み寄った。

「何年ぶりかのぉ〜わからんわ。ちょっと店長に呼ばれてこっち来とったんやけどな…」

真島は後ろで控えめに待っていたあゆみに視線を移動させた。

「は、初めまして!望月あゆみと言います!」

マスターは自己紹介を終えたあゆみに優しく微笑み、自らも自己紹介をした。

「初めまして。井良平と申します。
この喫茶店WアルバートWのマスターをしております。」

「マスターはな、ここで店開いて20年くらいなるから街の事よう知っとる思うんや〜のう?マスター?」

割り込んできた真島は早口でそうまくしたてるとマスターを見た。

「確かにこの店を開いてから21年になりますけど…街もいろいろ様変わりしますから、なんでもお答え出来る訳ではありませんよ。で、何か困り事ですか?」

真島はあゆみに代わり、ここへ来たことの経緯を全て話した。



「なるほど〜お爺さんをお探しですか………あいにくその方に思いつく心あたりはありません。申し訳ないのですが…」

そう事がうまく運ばない事に慣れてきていたあゆみですら、マスターの言葉はショックだった。
偶然にも大阪に来ていた真島に話しかけられ、街に詳しい人物を紹介してもらったと言うのに。

「私に心あたりはありませんが、友人や、近所の方に知っている方がいるかもしれませんよ?今日はもう遅いので連絡は取れませんが、明日で良ければ確認してみますので、いったん保留にしましょうか?」

優しく良く通る声色に諭された二人は、今夜はここまでにする事に決めた。

「こんな夜遅くにすみませんでした。申し訳ないのですが、知り合いの方に連絡お願いします!これ、私の携帯番号です。」

「はい、確認しだいご連絡差し上げますね。
あまり考えずに、明日は観光でもして気を休めて下さい。」

マスターの気遣いにあゆみは小さく頷き、真島と共に二人は喫茶店をあとにした。
次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ