儚く消えるは、夢の如く


□2章
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「どこに宿取っとるんや?」

喫茶店からの帰り道、ゆっくりとした歩調で真島は尋ねてきた。

どうやら履き慣れないハイヒールを履いたあゆみに合わせてくれているようだ。

「名前…忘れちゃったんですけど、商店街から入った路地にある、小さなビジネスホテルに泊まっています。」

真島に尋ねられ慌ててあゆみは自分が宿泊しているホテル名を携帯で調べた。
真島は正確なホテルの情報を聞かされるとすぐさまタクシーを拾い、あゆみに乗るよう促した。



タクシーは、夜がふけてもなお人で溢れかえっている街をゆっくりと抜けて行く。
この街特有のカウントダウン付きの信号を過ぎ、酔っ払いの絡み合いを横目に、なおもタクシーは目的地に向かって進む。
そんな中真島が口を開いた。

「今日は疲れたやろ?こないな男に話しかけられびっくりしたうえ、連れて行かれた場所では何の情報も得られんかったわけやしなぁ。」

「そんな事ありません!
私、真島さんやマスターに親切にして頂いて、まだこの街にも希望はあると思い直していたところなんです!
だって、会ったばかりの人にここまで親切にしてくださる方がいるって事は、これからも出会うんじゃないかって思えて。
大阪って、人情に溢れた街だってテレビで言ってました!だからまたお二人みたいな方に出会って、おじいちゃん見つかる気がするんです。」

「お話中すいません…ここで大丈夫ですか?」

タクシーが目的地に着き運転手が遠慮深気に告げた。
運転手が料金をつげるより早く、真島は財布から一万円札を抜き取り、何も言わずにシートの間に置かれたトレイに乗せた。
あまりにスムーズな流れに、自分が支払う事すら口に出来ないあゆみに、真島は降りるよう促し、二人はタクシーを降りた。

ホテルの前、メインの商店街が近いからか行き交う人がちらほらいる中、異質な二人は佇んでいた。それはまるで別れを惜しむ恋人同士のように。

2時間前に出会ったばかりの二人にそんな感情がある訳ないのだが、はたから見るとそう見えるほど、二人を包む空気は独特だった。いや、見た目がそう思わせるのか…

彼は彼なりに彼女の行く末が心配で、彼女は彼女でこの奇抜な男がどこから来た何をしている男なのか気になっていた。

そして、それを言葉に出さずにいたものだから、沈黙が流れていたのだ。
その沈黙は、彼の一言で破られた。

「じいさん、見つかるとええなあ。
俺は明日中に東京帰るから、もう手伝ってやれんねん。せやから気長にマスターからの連絡待っとき。」

「あ……そうなんですか…」

「ほなまた!」

そう告げるや否や、真島は長い足をくるりと回転させ、颯爽と雑踏に消えて行った。

(またって、連絡先も交換してないのに…)

だからといって追いかける事も出来ず、意外にも親切だった妙な男との別れをなんとか受け入れて、あゆみはホテルの自動ドアをくぐった。
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