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□勘違い。
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「彩ちゃん朝だよー」



「はい、抱っこ」



寝起きの私は毎朝抱っこをせがむ。




寝室を出れば朝ごはんのいい香りがして、温かいご飯を食べられる幸せを感じる。





「「ごちそうさまでした」」




準備を終えて、玄関に向かう。





「はい、彩ちゃん」



毎朝満面の笑みで両手を差し出してくる。



「もう。。今日はどこにいくん?」



「今日はコロッケでも食べようかな!
昨日のお釣りがあるから1000円でいいよ!」


「いいよ!やあらへんねん!
お仕事を探してください。」



「わかってるよ!あ、彩ちゃん時間。」



「はぁ、行ってくるな。戸締りちゃんとするんやで。」



「待って!彩ちゃん!」



「まだ足りひんのっ、」



振り返った瞬間



「違うよ、じゅーでん。」



私より身長が高い彼女に包み込まれるようにハグをされる。


私は、これに弱い。。




「行ってきます」



ガチャ


カギを閉めようとした時にはもう姿は見えなくて



「早っ、」



さっきのテレビ面白いって見てたしなーなんて





マンションのロビーを出て、車に乗り込もうとすると



「彩ちゃーん!!!」



ベランダからこっちに向かって手を振ってる。

親と離れる子供みたいだけど、かわいい。



周りの目を気にする様子もなく大きく手を振るのに、私も笑顔でこたえる。








さぁ今日もお仕事です。











昼休みの時間、インスタを開けば、


『コロッケ美味しい。次は一緒に来たいな。』



食べかけの写真を添えて投稿されていた。






一緒に来たいのが私なのかは正直わからないし、期待もしない。






何件もの女友達からのコメント。

「私とも行こーよ!」
「奢るからご飯行こ?」



どのコメントに対しても
「いつかね笑」


と返していて、少しは期待してもいいのか、とも考える。












この日は金曜。仕事を終え、まっすぐ家に帰る。



「ただいまー」


「おかえりー」


「そのゲーム面白いん?」


「うーん」



ろくに話も聞かない。



「ご飯何がいい?」


「なんでもいい」


「シチューかカレー」


「なんでもいい」






ほんとに聞いてない。
もう知らん。

食欲もなくなる。






お風呂の準備でもしよ。





彼女はものすごく料理が上手い。
毎日の朝ごはんは贅沢すぎる。


でもなぜか夜ご飯は作らない。



最近は私が買ってあげたテレビゲームばかりで、会話をすることも少なくなった。








私に興味はないのだろう。









お風呂も済ませ早めにベッドに入る。







それでもまだ寝転がってゲームと向き合ってる。


見えるのはパーカーのフードを深く被って足をブラブラさせる後ろ姿だけ。







でも、彼女は優しい。








ベッドに行くのはわかったのだろう。

何気ない様子でテレビの音量を下げる。




















もう深夜だろう。ベッドに彼女が入ってきた。




「彩ちゃんごめんね。」




えっ、何を謝ってるん。

私は目は開けなかった。




「お仕事、ちゃんと見つける。早く出ていくから。もうちょっとだけ一緒にいさせて?」




多分彼女は勘違いをしてる。
私は仕事をしだしても家から追い出すつもりはないし、ずっと一緒にいたい。






「彩ちゃんのことが好きなんだ。
こうしないと、離れちゃうから。でも、寂しくて。」






目を開けるのをこらえた。なぜか涙が零れそうだから。







「今日のコロッケね、すごく美味しかったんだ。
今度彩ちゃんと食べたいな。」







もういいや、そう思い彼女の方に振り返った。








「起きてたの、、?」


「夢莉、出て行かんといて?」


「えっ?」


「夢莉勘違いしてんねん。お仕事見つけてもここにおっていいんやで?」


「いいの?」


「あたりまえやん。私は夢莉がおるこの家が好きやねん。」


「好きじゃん。そんなの。」





彼女は力いっぱい私を抱きしめた。


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