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□squall
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【夢莉ちゃん】

はぁっ、はぁっ、




やばいっ。





バタッ!






「おっ!おい!大丈夫か!?すぐ救急車呼ぶからな!?」



誰だろうか。
そして私は、何をしているんだろうか。









┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



「太田さん、、がんばりませんか。」


「もう嫌です。死んでもいいです。
頑張るって、今まで散々頑張ってきましたよね!?
もう、楽になりたい、、」


病室を飛び出した。








3年も前、15歳の頃から癌と闘っている。
何度も抗がん剤治療をし、心も身体も限界を迎えていた。




18歳の誕生日を迎えようという11月下旬、何度目だろうか、「再発」という言葉を聞いたのは。





耐えられなくなった私は、大雪の中に飛び出してしまった。


走った。息が切れるくらい。
走った。全部忘れられるくらい。





やばいっ。





身体は限界で、とうとう倒れてしまった





目が覚めれば、いつもと同じ天井で。
左手にはいつも通り針が刺さっていた。






あっ、あの時。








私はふと思い出した。
倒れた時、誰かが助けてくれたんだった。
覚えているのは声だけで、若い男性だった。









視界には左右に揺れる全身黒い服の、男?の人。


その後ろにはスーツの男の人。




「さやか!目覚めたみたいだぞ!」


「ほんまに!?
あっ、おい大丈夫か?」




知らないうちに涙を零した。




「泣いてるん?」



「何でまたここにいるの、、」



「なんでって、君倒れたんやで?
あんな大雪の中で。」




彼は窓を指さして言った。





「もう、終われると思ったのに、、」



「えっ?」



「こんな生き方生きてるって言わん!
ねぇ!私何か悪いことしたの!?」







初対面で命を救ってくれた彼に、怒りをぶつけてしまった。



でも、私はどうしようもできない。






「辛いよなっ」



「私の事なんてわかるわけない。」



「わかんで?」



「えっ?」




「前田さん、ちょっと外してくれるか?」



「はいよっ」


マネージャーらしき人に席を外すよう促す




私の事がわかるのなんて私しかいない。
なのに何がわかるっていうの。






「俺な、癌やってん。
しかも小さい時。きつかったわ。
死ぬかと思ったで?何回も。
医者は“がんばろう“しか言わへんし、親はお金は用意するけど仕事仕事って。

死んだ方がマシや。って」



「無事やったん?」




「無事やったからここにおんねん笑
小さかったから進行もめちゃくちゃ早くてな。
余命宣告っていうん?あれももうすぐ言われるんやろうな〜って。
でもな、治ってん。奇跡としかいえへんかった。俺、がんばった。」




彼にも経験がある。
しかも今の私より10歳以上も若い時。





「すごいんやな、あんた」



「ゆうりって言うん?」



ベッドに記される名前を彼は読んだ




「そうやで」




「ええ名前やな!」



「あんたはなんて言うん?」



歳上なのは明らかなのに、無礼な態度を取っているのは自分でも自覚している。




「俺の事わからへんの?」



「知らん」




「ほんまに、、?
まぁまぁ有名になったと思ってたんやけどな〜。」


頭をかきながらほざいた。




「私、病気のことしか知識ないねん」



「俺は山本彩。シンガーソングライターってやつ?やってる」



「ふーん」



「いや!興味ないんかい!笑」



「プッ!アハハ!」



「やっと笑った。笑った方がかわいいで?」



「うっさいハゲ!」



「誰がハゲやねん!まだ24やぞ!」




優しい人。久しぶりに会った。
なんかお兄ちゃんに会いたくなっちゃったな。


24か、6歳も歳上なんや。






「さやか、そろそろ時間や」



再び病室に入ってきた前田さん




「ほな、行くわ。」



彼は足早に去っていく。





「ねぇ!また来る?」



「来てもええの?」


何言ってるんだろう。



「来たいなら、来てもいいよ。」



「なんや素直じゃないな笑
また来るわ、また話そ。」



「ねぇ!」



「次はなんや笑」



「あのぉ〜、その〜、ありがとう。」




ぽんぽん。

彼はニコッと笑って私の頭を2回触れた。




ガラガラ





なに。今何が起きたん?

どんどん顔が熱くなる。





山本彩。

あなたは一体。


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