運命の女

□プロローグ
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ファム・ファタールというフランス語がある。

意味は「運命の女」と言い、赤い糸で結ばれた相手、もしくは男を破滅させる悪女のことだ。

俺は女が赤い糸の相手か、悪女なのかは男次第だと考える。

男が女に尽くせば当然女も運命の相手として男に尽くすし、男の自業自得によって破滅することはよくある話だからだ。

確かにそう思っていたんだ。




NYの冬の真夜中で白い息を吐き、返り血で汚れた身なりのままルパンと五ェ門が待つアジトへと片足を引きずりながら向かっていく。

しくじった…。

この裏世界で恨みを買うことは珍しくない、元々過去の因果が巡って今に至ることも多々ある次元だった。

後ろからリンチされ、銃を奪われる前に何とか仕留めたのだ。

久しぶりに大きな仕事を片付け、多額な報酬を受けたルパン一味で祝い酒をし、飲み足りなかった次元だけバーで飲み直したのだ。

普段以上より飲酒をしていたこともあったために迂闊だった。

ルパンを呼び出そうにも運の悪いことにスマホの充電も切れ、公衆電話も見当たらない。

最悪だ、殴られただけとはいえ複数の男にリンチされたのだ。

若いとは言えない肉体に相当堪えた、もう自棄になってこのまま雪の降るなか倒れてやろうかと思ったら本当に体が前へと揺れだした。

意識が遠退くなか、髪の長い女がこちらに気付いて駆け寄ってくるのが見えた。







『ラーラーラー…ララーラー…』

まず感じたのは女の歌声だった。
ゆっくりで柔らかく、優しい歌声が次元の耳を心地良くくすぐるのだ。

目をうっすら開けると次元はベッドで横になっており、その傍で女は本を開いて椅子に座っていた。

もぞ、微かに次元が動くとそれを見逃さなかった女はすぐ様、心配そうに顔を覗き込んだ。

触れると柔らかそうな細く長い髪、赤い薔薇の唇、大きな瞳はまるで真珠の輝きのように美しかった。
年は24、5歳くらいだろうか、次元より大分年下のはずなのに妖艶さを感じさせる容姿だった。

『大丈夫で…』

「続けてくれ」

『え?』

キョトンとした顔で次元を見つめる表情にまだ幼さがほんの少し感じられた。

「そのまま…歌ってくれないか…?
夢の中にいるみたいで心地良いんだ…」

次元の言葉に対する応えだったのだろうか、女は優しく微笑み彼のためにまた歌い出した。


確かに声は天使のそれだが、女性経験の多い次元でもゾクッと感じさせるような悪魔的な美しさだった。





ファム・ファタールというフランス語がある。

意味は「運命の女」で赤い糸の相手か男を破滅させる悪女か。

女がどっちに転ぶかは男次第だとそう信じてきたが、今はとても自信がなくなってきた。
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