ソニック
□雨
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今日は、激しい雨が降っている。
滝のように轟音を響かせながら。
そんな中、君は、いた
GUNの仕事が一段落し、家に向かっていた。
雨が凄まじく、前があまり見えない。
さっさと家に帰ろう。と、小走りに走っていたとき。
あまり良好ではない視界の中に、見たことのある、青い影が映った。
青い影の針鼠は、傘をさすわけでもなければ雨具を身につけることもなく、ただ、ただ雨に打たれていた。
いつも鬱陶しいぐらい活気に満ちていて、明るい針鼠の面影が、今は全くといって良いほどない。
何かを洗いながすかのように
何かを、雨に求めるかのように、彼は動かず、雨にその身をさらしていた。
「……何をしているんだ、君は」
あまりにも不可解な事を目の当たりにした僕は、無意識に彼に声を掛けていた。
彼の青い毛並みには、雨が染み込んでいて、まあこんな天候だから当たり前なのだが、びしょ濡れだった。
「…シャドウ?」
雨に浸ることに意識がいっていた彼は、虚ろな目をこちらに向ける。
気のせいかもしれないが、彼の燃え上がるような、きれいな深緑の瞳は、どこか濁りを含んでいるように思えた。
そんな彼を放っておくわけにはいかず、無理矢理腕をひいて、自宅へと向かう。
彼は何も言わなかった。
拒絶もしなかったし、腕を振り払うことも無い。
ただ、この腕を離してしまったら
この雨の中の闇に溶けてしまいそうな錯覚を起こすほど、彼の手は弱々しかった。
家の前に着く。
玄関に入る前に、彼は全身を震わせて、体の水気を払った。
さすがに寒いのか、少し震えている彼に、家に入れと促す。
玄関を入ったあたりで、タオルを手渡す。
ソニックはThanks、と一言言って、身体を軽く拭く。
その後、ソファーに座って震える彼に、温かいコーヒーを差し出す。
すると寒さも幾分なくなったのか、震えは止まった。
そんな彼に僕は再び疑問をぶつけた。
「ソニック、もう一度聞くが、何をやっていたんだ」
「…いや、別に…なんとなく……」
なんとなくどしゃ降りの雨に打たれる針鼠がどこにいるというのだ。
僕が真剣な表情で彼を見据えると、ソニックは黙って俯いてしまった。やはり、いつもの彼ではない。
「…面倒掛けて、悪かったな……」
違う。僕が聞きたいのはそんな謝罪の言葉ではない。
だって、あまりにも君が君らしくないから。
しかしこれ以上聞いても、きっと何も変わらないだろうと思い、そうか、と納得してみたように見せた。
ソニックが飲み終わったコーヒーのカップをしまいに行く。
その間にも、僕の脳裏に浮かぶのは、雨に打たれていたソニックの姿。
部屋に戻ると、彼はソファーに横になり、眠っていた。
気持ち良さそうに寝息をたてる。先程の表情が嘘のようだ。
額に手をあてると、わずかにだが、雨に打たれたせいか熱を持っていた。
―君が何も話さないというのなら、別にかまわない。
ただ、何かを一人で背負う君の姿は見たくない。
僕は火照った彼の額に、水を含んだタオルをのせる。
―君の笑顔を奪うものから、僕は君を守ってみせる
いまだ眠る彼の頭を、そっと撫でた。