ソニック
□ぽかぽか
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ぽかぽかと、暖かい。
気をぬくと、今にも眠気が襲うであろうという、ある日。
針鼠三匹は、草原の上にいた。
「んー、いい天気だな…」
「…いつものように走ってこないのか?」
草原に一際目立つ青、そして黒。
黒い方が青にさりげなく質問する。
「たまにはこういうのもいいだろ?」
「………まあ君の勝手だがな……」
青は草の上に寝そべる。
黒は寝そべり…はせず、座りこむ。
そんな二匹の前を、白に近い、綺麗な銀色の毛をもつ針鼠が走りすぎる。
「……おい、シルバーがまた馬鹿なことをやっているぞ……」
「ほっとけよ。いつものことさ」
「まちやがれこのやろおおおおおお!!!」
シルバーと呼ばれた針鼠が追っているもの。それは…
「……シルバーの奴、蜂に刺されたな……」
「……………」
そう、蜂。
シルバーは懸命に「蜂」をものすごい形相をして追っていた。
丁度鼻の上あたりがぷっくら腫れている。
なかなかつかまらない蜂に我慢できなくなったのか、シルバーはお得意の超能力で蜂を捕らえた。
「やっと捕まえたぜ…よくもやってくれたな」
目の前で身動きがとれない蜂相手にしゃべるシルバー。遠くからみたら明らかに変な人…否、針鼠だ。
「それくらいにしておけ、シルバー」
「止めるなシャドウ…これは俺とこいつの問題だ!」
シルバーの瞳は、燃えていた。蜂相手に。
あまりにも蜂がかわいそう…というよりはシルバーがかわいそうになったシャドウは、傍らにあった小石をシルバー向かって投げつけた。
見事にシルバーに当たり、ひるんだシルバーの隙をついて、蜂は青空に消えた。
「ってえ!なにしやがるシャドウ!!」
「蜂相手にむきになっている君を見ていたらむなしくなってきて、つい」
「なんでむなしくなるんだよ!!」
小石が当たった頭部と、蜂に刺された鼻の辺りをさすりながらシルバーはシャドウを睨み付けた。
「あんな小さな虫に…馬鹿らしい」
「馬鹿らしいってなんだよ!この痛み!ヤバイぞ、…はちっていうのか?あの虫は!」
未来の世界には蜂がいないのだろうか。
「とにかく不振に思うからやめておけ」
「うー…わかったよ」
渋々承諾するシルバー。
シャドウは呆れながらその様子を見ていた。
ふと、隣のいつもはうるさい青い針鼠が、珍しく会話に入ってこないことに気づいた。
「…そーいや、ソニック、珍しく静かだな……おーいソニック?」
「…………?」
二匹がソニックの方を見ると、すやすやと、心地良さそうに眠っていた。
規則正しい寝息が、耳に響く。
「あー、寝ちまったな…」「………………」
全く呑気なもんだ、とシャドウは思った。
ちゃっかり未来少年シルバーもいることもあり、本当に“平和”なんだな、と感じる。
「…平和ボケしそうだ…」「ま、いいんじゃないかな、こういうのも」
ごろんとシルバーも大の字になって草の上に倒れこむ。
「未来世界じゃあ空は真っ暗だったし…こんなにゆっくりできなかったし」
青い空を見上げながらシルバーが呟く。
「……だが平和すぎてなんだかな……」
決して明るい道を歩んできたわけではないシャドウは、微妙な心境のようだ。
「いいじゃん。少なくとも、平和は悪いもんじゃないし……こうやって過ごす時間も、大切だと思うし」
「蜂をすごい形相で追いかける時間がか?」
「…うるせっ!それは…えと……別だ!!」
冗談でシャドウが言葉を返すと、シルバーが言葉につまる。
(でも、確かにこうやって過ごすことも、大切なのかもしれない)
風がさわさわと吹いている。川の水は静かに流れ、花は風によって左右に揺れる。
普段は気にしない当たり前のことが、今はすべてが温かく感じられる。
(たまには、な……)
シャドウもソニックの横に寝転び、瞼を閉じた。
太陽は、あたたかな光で、三匹の針鼠を照らしていた。