短編*中編集
□蛍の消えた空
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彼との出会いは春。
その日の私はいつになくむしゃくしゃしていて、庭の桜の木に苛立ちをぶつけていた。
『男なんて…男なんて滅びればいいんだ』
私を避難する男なんて全員いなくなればいい。
昔から…どうも男とは相性が悪かった。
今日も少し見ていただけなのに、何を思ったのか「あいつは俺に惚れている」などと言って私を避け始めた男子がいた。
勘違いも甚だしい。
『誰がお前なんかに惚れるかっての…マジで死ねばいいのに』
私はただ人間観察が好きなだけ。
人の感情の移り変わりを見ているのが好きなだけなんだ…なのに
『…あーっもぅ!!!あいつ絶対殺してやる殺してやる殺してやる!!!』
「五月蝿い」
怒りのあまり人の気配に気が付かなかった。
植木を挟んだ隣の家。
そこの一室、いつも襖が閉まっている部屋が今日は開いている。
部屋の中は畳部屋で、中央に布団が一つあるだけ。
「キミは岸尾さんの家の子か?
何があったかは知らないが、簡単に口にしていい言葉じゃないな」
不愉快だ。
キッパリと言い切る男は、その殺風景な部屋の中にいた。
布団から上半身を起こし、パラパラと本をめくっている。灰色がかった白い浴衣がとてもよく似合う美青年。
彼の言う事は最もだ。
でも、素直に謝れる気分じゃないのも事実…
『………』
「反省の色なし…か」
『別に…自分の家の庭で何言おうが、私の勝手じゃないですか』
虚勢を張って見せたが、男の鋭い視線のせいで弱々しいものにしかならなかった。
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