Dream novel

□夜桜〈歌仙兼定〉
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夜、ふと目が覚めた私は水を飲みに行こうと思った。
廊下に出るとミシッと音が鳴る。かなり大きな音がした。



音で短刀たちを起こさぬよう慎重に歩く。
だが、寝ぼけた頭に集中する作業は苦痛だ。すぐに疲れてしまった。

苦笑しながら廊下の端に座った。
ぼーっと目の前の景色を見ていると思わず呟く。

「桜、綺麗だなぁ。」

目の前では桜が月に照らされ静かに花びらを落としていた。どことなく儚げな雰囲気を出している。

普段の私からは想像がつかないことをしていると思う。いつもはだらだらとゲームをし、仕事は長谷部に任せている毎日だからだ。

こんな所を見られたらと思うと少し緊張する───





──「おや、夜桜を楽しむとは風流だねぇ。」

「うおあっ!?」

いきなり話しかけられ変な声が出た。その勢いのまま振り向く。

「歌仙。起きてたんだ?」

「考え事をしていたら月の光が遮られたからね。誰かと思ったら主だったとは。」

声をかけてきたのは歌仙兼定。私の本丸の初期刀だ。ここだけの話、彼とは恋人である。

「驚いた?」

「そりゃあね。君も案外雅を分かっているじゃないか。」

歌仙は楽しそうに笑った。そして、隣いいかいと一言添えると私の隣に座る。

彼の白い肌に月光が加わり、思わず見とれてしまいそうな綺麗さだった。
いや、その綺麗さに見とれていたのだろう。

「どうしたんだい?僕をじろじろ見て。で、桜は見ないのかい。」

「えっ、あぁ、いや。もちろん見てるよーアハハ。」

歌仙に軽く怒られてしまう。慌てて誤魔化した。が、彼はどこか腑に落ちないといった顔をして再び桜の方を向いた。






何も、音がしない。
その静けさが不思議と心地よかった。






不意にお香の匂いと暖かいものに包まれる。
歌仙に抱きしめられていると気づくまでにそう時間はかからなかった。

「いきなり、どうしたの?」

「何となくね。すまない、あまり雅じゃなかっただろう。」

「別に構わないけど……」

誰も見ていないとはいえ、恥ずかしかった。

「君は本当に綺麗だ。今日の桜にも劣らない。」

彼がしゃべるたびに吐息が私の耳や頬にかかるのだ。それも地味に熱い。先ほどから顔が赤くなっている自信しかなかった。

私は耐えきれなくなり、やめさせようとした。

「流石に恥ずかしいからやめて?ほら、桜見よう!」

「ならこのまま見ればいいだろう?僕は放すつもりはないよ。」

即答。何を言っても無駄だった。







抱き合ったまま、また時間が流れた。
少しずつまぶたが重くなってくる。

「ふわぁ……」

あくびが漏れた。

「ふふっ。……お休み。」

最後に聞こえたのは、歌仙のその一言だった。






「あぁぁぁるじぃぃぃ!?」

「歌仙くんに主、いったい何してたの!?」

二人ともそのまま寝てしまっていたらしい。朝になって聞こえたのは、長谷部と燭台切の叫び声だった。



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