短編
□中秋の名月
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仕事が終わり、ふと空を見上げると
少し雲がかかっているものの
眩い輝きを放っている美しい月が。
今日一日の疲れを癒やし
明日への活力を与えてくれる。
街の喧騒、雑踏を気にせずに
堪能したいと思った咲乃は
おそらく仕事が終わったであろう恋人に
お誘いのLINEを送った。
咲乃:月が綺麗ですね。
美彩:え、あ!すご〜い。
咲乃:一献、どうですか?
美彩:いいね♪
咲乃:では、うちの家に。
美彩:おっけ〜。
文学に通じている咲乃は
夏目漱石の有名な訳。
I LOVE YOU=月が綺麗ですね。
を送ったのだが、綺麗にスルーされ
少し残念な気持ちになったが
先輩であり、恋人である衛藤と
中秋の名月の下、呑めることになり、
沈んでいた気持ちは一気に高揚した。
『このくらいでいいかな?』
自宅に着いた咲乃は
クーラーボックスの中に
お猪口、グラスを2つずつ。
日本酒を2、3本入れ、
屋上のテラスに持って行った。
『おぉー、よく見える。』
咲乃が一人暮らしをしている一軒家は
屋上の一部がテラスになっている。
そのため、BBQや花火大会などで
よく会場になる。
テラスで待つこと数十分、
ガチャっと鍵の開く音が聞こえ、
ガラガラと窓を開けて現れたのは
着物姿の美彩だった。
「着物着て来ちゃった♪」
『似合ってます。』
「んふふ〜、嬉しい。」
『じゃ、呑みましょうか。』
「おーぅ!」
よく冷えたお猪口に日本酒を注ぎ合い、
お猪口を少し上げて、乾杯。
秋めいて来た涼風を感じながら
日本酒を一口呑むと
少し火照った身体の中を
程よい冷たさが流れていく。
口当たりはまろやかだが
のどごしが良いキレのある味わい。
月見酒としてはこれ以上ない
至福のひととき。
煌々と輝く中秋の名月に
隣で幸せそうに呑んでいる
恋人の美彩。
今日を終えるのに
この上なく贅沢な時間だと
咲乃は思いながら呑んでいた。
『やはり、月が綺麗ですね。』
「私、すごい幸せだよ?」
『うちもです。
(んー、やはりダメか。)』
再び挑戦するも
また見事にスルーされる咲乃さんでした。
<オマケ>
「飛鳥〜。」
飛鳥「?」
「月が綺麗ですねって咲乃に言われて
月見酒して来たよー。」
飛鳥「そうなんだ。」
「綺麗だったよー?」
飛鳥「よかったね。
(私なら死んでも良いわって返すかな?)」
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