short novel 


□月砂夜曲
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「やめて、ルカ!」
キャロルの怯えた声を聞いても、ルカは行為をやめなかった。
逃げようともがく少女にのしかかり、手荒に衣装をほどき、素肌をあらわにしていく。
信頼していた従者の突然の変化は、キャロルを混乱と動揺に陥らせた。

「どうして‥‥?」
悲しげに潤む瞳を間近にし、ルカはようやく動作を止めた。それでも胸に積もった想いを吐き出さずにはいられなかった。
「愛しています」
びくっと震えた肩を抱きしめ、ルカは呻くように言った。
「無礼は承知の上です。でもずっとこうしたかった。愛している─────あなたが欲しい」
腕の力を強める少年を、キャロルは首を振って制止した。
「だめよ、わたしをヒッタイト軍に連れ戻すんでしょう? こんなことをしたら、あなたイズミル王子に殺されるわ」

ルカは耳を疑った。
今、何と言った?
もしや彼女は自分の正体を─────

「キャロル様、まさか、気がついて‥‥」
「あなたが何者か知っていたわ」
キャロルの告白に、ルカは驚愕した。
「でも知らないふりをしていた。わたし‥‥ルカがそばにいてくれるだけでよかったの」
「キャロル様!」

愛しい少女の思ってもみなかった本心を知り、ルカは両腕でキャロルを抱きすくめた。
「あなたのためなら死んでもいい。あなたを奪ってしまいたい、メンフィス王からも、イズミル王子からも!」
金色の髪に顔をうずめて叫ぶと、そっと抱擁が返された。
「なら‥‥奪ってちょうだい‥‥」
ルカの背中に手を回し、キャロルは言った。
「わたしをさらって。わたしを連れて逃げて」

─────ふたりは無言で見つめ合った。



唇が重なる。
くちづけは甘く、深く、しだいに激しくなる‥‥‥‥
月夜の砂漠、水辺に布を敷いた小さな休息場は、愛の褥に変わった。

一衣もまとわず、すべてをさらけ出し、ありのままの姿で横たわるキャロル。
なんて美しいのだろう。しばらく呼吸さえ忘れ、ルカは女神の化身のような裸体に見とれていた。
これほど白い肌は見たことがない。ずっと近くにいたのに、こんなふうに触れるのは初めてだった。
いや、もとよりキャロルを愛せる日が来るとは考えてもいなかった。夢をみているようだ。だがなめらかな手ざわりと伝わってくるぬくもりは、たしかに現実のものだった。

ルカがほどこす愛撫に、キャロルは敏感に反応した。エジプトでメンフィスに、ヒッタイトでイズミルに、彼女が夜ごと抱かれてきたのはわかっている。なのにその事実を目前で見せつけられると、やはり平静ではいられないルカであった。

二人の男に存分に愛でられたであろう、艶美な胸のふくらみ。
それを優しく撫でながら、ルカはメンフィスに両胸を揉みしだかれて悶えるキャロルを想像し、また先端の可憐な果実を味わいながら、ここをイズミルの唇で愛玩され、快感にすすり泣くキャロルも思い浮かべた。

息苦しいほどの嫉妬心にかられ、足を開かせて狂おしく顔を埋める。
あふれる蜜を啜り、花びらを甘噛みし、繊細な芽を丹念に吸い、花園の奥深くに舌を差し入れ、ルカは夢中でキャロルを愛した。
もう二度とメンフィスにもイズミルにも触れさせない。誰にも渡さない。キャロルは自分だけのものだ。
そう思い知らせるように濃密で熱烈な愛撫を加え、ルカは思うさまキャロルを乱れさせた。

「‥‥あぁ‥‥‥‥あぁん‥‥‥‥ああぁ‥‥‥‥」
熱を帯びた肌。甘美な喘ぎ。極みを迎え、震えながらのけぞる裸体。
キャロルの反応のすべてが媚薬となり、ますますルカを駆り立てる。

そうしてふたつの身体は融合し、愛の律動が始まった。
「‥‥ルカ‥‥ルカ‥‥」
キャロルに名を呼ばれる度、脳が痺れた。
下半身が熱く溶け出してゆく錯覚に、意識が飛びそうになる。

激しい突き上げに金の髪は散乱し、少女は荒々しく揺り動かされ、悲鳴に近い喘ぎがあがった。
「あっ‥‥あああ‥‥ああっ‥‥」
華奢な女体を手ひどく苛んでいるのはわかっていた。
けれど動きは止まらない─────止められなかった。
禁欲を解かれた男の本能は、凶暴な貪欲さで、愛する少女を求めた。
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