短編

□その鬼、獄卒
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ガタリ、と音を立てて小窓を外す。ギリギリ通れるようになったそこを潜り、建物の中へ侵入した。

最後に通した金棒を肩に担ぎ、薄暗い室内を見回す。


「さて、どこに居やがるんですかね」


どう始末をつけてやろうか。

そう呟いて、歩みを進めた。


――



「あ? 今、なんか音しなかったか?」

「え、うそ」


くるりと辺りを見回しながら、竜司が言った。

その言葉に近くにシャドウが居るのかも、と警戒をする。

しかし、双葉の「シャドウの気配は無いぞ」という返事に警戒態勢を緩めて、それでも少し辺りを気にしながら、竜司を見た。


「気のせいじゃないか?」

「んだよ、ジョーカーも俺を疑う気かよ」

「しかし、スカルにだけ聞こえていた訳だろう。現に俺達には聞こえていない。それに、何か動きがあればナビやモナも気付くのではないか?」


そう冷静に言う祐介の言葉に、確かに……と頷く杏や春を横目に見て、辺りに耳を欹てる。

特に変わった音はしないし、この階のシャドウは粗方片付けた筈だ。しかし、竜司が嘘をついているようにも見えない。

風で何かが落ちたのか、増援なのか、それとも…………。


「とにかく、長居は危険ね。ジョーカー、今日の所は引き上げるというのも手よ。もうオタカラへのルートは確認済みだし、もし増援なら現状これ以上の戦闘は厳しいわ」

「……そうだな、クイーン。今日はもう、」


引き上げよう、そう続くはずの言葉は


「おや、人間が居ましたか」


突然、現れた"鬼"によって遮られることになった。


「っ、シャドウ!? そんな、なんの反応もなかったのに!」

「構えろ!」


双葉とモルガナの声が響き、すぐさまそれぞれが戦闘態勢に入る。

敵は一体。数ではこっちが優勢だが、戦闘続きの疲れもある上に相手の力量が測れない今、油断は出来ない。

しかし、相手は金棒をゴトンと重量のある音を立てて床に放ったかと思うと、溜め息を一つ吐いてこちらを面倒そうに見やった。


「驚かせてしまい申し訳ありません。私に敵意はありません。それに、私が狩るのは人間ではなく」

「シャドウの言葉が信じられるかよ!」

「いえ、私はシャドウでは」

「おいジョーカー! 増援呼ばれる前に、早いとこ片付けちまおうぜ!」

「人の話を最後まで」

「いくぜ、キャプテン・キッドォ!!」


そう言って武器を担いだ竜司に、視線を向けた


瞬間


「人の話を聞きなさい!!」

「ぐへぇっ!!?」


竜司が、飛んだ。

え、と思う時には、もう竜司は天井に頭をめり込ませていた。それはもうギャグ漫画のように。

ポカンと全員で天井に刺さる竜司を見上げた後、ゆっくりと"鬼"を見た。

さっきまで竜司が立っていた所で片腕を突き上げていて、すぐに竜司は強烈なアッパーをかまされたのだと理解する。

そして"鬼"は突き上げていた腕を下げ、禍々しい空気を纏いながらこちらに振り向いて口を開いた。


「このバカのようになりたくなければ、人の話を最後まで聞きなさい」

「……はい」


竜司、すまん。今の俺達にはこの"鬼"に勝てる自信が無い。

未だに天井に突き刺さる竜司を他所に、俺達は止まることのない冷や汗を流しながら、ただ頷くしか出来なかった……。



(竜司の犠牲は無駄にしない……)
(素直な子は好きですよ)
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