短編

□お友達から
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斉藤さんと文通を始めて、一週間が経った。

彼に手紙を渡すと、待ってましたと言わんばかりに手紙を受け取ってお辞儀をするのだ。そして、返事が驚くほど早い。その日の内に返事を書いてくるもんだから、一週間と言えばまだ短いが、文通の量はそこそこある。

溜まってきた斉藤さんからの手紙を小箱に入れ、今日渡された手紙に目を通す。

斉藤さんは紙の上では饒舌だ。今日あった事、食べた物、天気、嬉しかった事、仕事の事、他にも色々と話してくれる。昨日の夜中に、全裸の近藤さんを台所で再び目撃してしまった事も丁寧に書かれていた。まだやってたのかよあのゴリラ。

斉藤さんが沢山話をしてくれるものだから、私もつい色んな事を書いてしまう。彼と同じような事を、つらつらと。

筆を取り、書かれている事にコメントをしつつ、こちらも話題の文を紙に並べていく。文通って、こんなに楽しいものだったっけ。

いつしか、私は斉藤さんからの手紙が待ち遠しくなっていた。彼の話を、もっと聞きたいと。


「よし、できた」


筆を起き、書き上がった手紙を封筒の中へしまう。いつも通り、表に斉藤さんの名前、裏には自分の名前を書いてテーブルに置いた。

携帯を開いて、斉藤さんへ手紙が書けた事と、都合の良い時にまた連絡をお願いします、とだけ文字を打って送信。

すると、ものの数分で返信が返ってきた。早くない?

開いてみると[今から行けますZ]の文字。まじか。人のこと言えないけど、仕事はどうした。

返信しようと、指を動かした……瞬間、鳴り響くチャイム音。


「……まさか」


チャイム音は段々と間隔が狭くなっていき、最終的にはピンポンピンポンと忙しなく鳴っている。恐らく連打をしているのだろう。いやうるせえな!!

玄関を見ると、見覚えのある黒い影。あの、特徴がある髪型は……。

早足で玄関に向かい、ガラリと戸を開ける。すると、そこにはやはり彼が居た。


「ど、どうも。お早いですね」

[すみません、待ちきれませんでした]


ノートに文字を書いてこちらを向ける斉藤さんは、走ってきたのか少し息が乱れているようだった。屯所から一気に走ってきたのだろうか。なんだこの人、面白いな。

手紙を渡そうかと思ったが、わざわざ来てくれているのに何もお構いせず帰すのは失礼だろう。

そう判断して、少し横にずれて斉藤さんに声をかけた。


「あの、お茶でも入れるので、よかったら上がってください」

「!!」


瞬間、目を見開いてビシリと固まってしまった斉藤さん。え、なに。どうしたの。すっごい目が血走ってるけど。

そして、少しの間硬直をしていたかと思うと、急にわたわたと忙しなく手を動かしだす。おおう、なんだなんだ。どうしたんだその動きは。

何か慌てていることは分かる。けど、彼はノートでの筆談を忘れているのか、ずっと手を動かして目も物凄く泳いでいた。やべえよ、斉藤さんの意図が読み取れねえよ。助けてくれ。

首を傾げながら彼の挙動を見ていると、私の視線で徐々に冷静を取り戻したのか、落ち着かない様子でノートを取り出して文字を書き出した。


[安本さん]

「はい」


よほど動揺しているのだろうか、いつもの綺麗な字ではなく少し荒く書かれている。

私の名前が書かれた面を数秒見せた後、緊張からか震えた指先でノートをめくった。


[お友達から、どうですか]

「…………はい?」


そう返すのと、彼が私の家の厠へ駆け込むのは同時だった気がする。





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