短編

□お手紙
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彼と初めて会ったのは、万事屋。

柱阿腐郎、と名乗る者と友達になりたい、という依頼で万事屋に訪れた時だ。ぶっちゃけ、柱阿腐郎とは変装した桂さんなのだが。

万事屋に来た彼がトイレを探し、キョロキョロと辺りを見回していた際に一度目が合ったのがファーストコンタクト。

それから事は進み、無事に彼からの依頼を終えて終了となった。無事なのかは分からないが無事に終わった。うん。

そして、今。


「……」

「…………」


目の前に、彼――斉藤終が立っている。何故だ。

今日も今日とて仕事の依頼は来ず、暇なので外を散歩していた私。

そろそろ戻ろうかな、と考えていた所に、彼は来た。

斉藤さんは、ただただ私を見つめながら棒立ち。そして、私もそんな彼を見上げながら棒立ち。なんだこの状況は。助けて銀さん。

務めている万事屋の社長に、心の中で助けを求めるが無意味。それどころか脳内に、鼻をほじりながら「知らねえよ」と言っている姿が浮かんだ。後でハッ倒そう。

顔の大半が布に覆われ、目元しか見えない斉藤さんの意図が読み取れない。おかしいな、表情を読むのは得意なのに。


「ええと、こんにちは」

「……」


声を掛けてみるが、無反応。いや、ピクリと肩が動いたが、それ以外は反応がない。なんなんだほんと。

困ったな、と眉根を少し寄せて首を捻る。

すると、ここで斉藤さんが動いた。


「……」

「……え?」


す、と音もなく差し出される何の変哲もない茶封筒。大きさ的に手紙だろうか。

両手でそれを受け取り、まじまじとそれを見る。私の名前が書いてあった。ということは、これは私宛ということか。

ひっくり返して裏を見ると、綺麗な字で斉藤終と書かれている。あれま。

斉藤さんから私に手紙なんて、驚きである。なぜいきなり。嫌な訳ではなく、寧ろ手紙を貰えるのは嬉しい事なのだが、斉藤さんとのやり取りは物凄く少ないのだ。そんな私に、なんで手紙を書いてくれたのか。

手紙から視線を外し、斉藤さんを見上げると、彼はペコリと小さくお辞儀をしてから立ち去って行った。え、なに、わざわざ手渡ししに来てくれたの? なにあの人、面白いな。元々面白い人だとは思っていたけど。

去って行く背中を少しの間見送り、自分も万事屋へ向けて足を踏み出した。帰って読もう。


――


万事屋に着き、中へ入る。銀さんや神楽ちゃん、定春の姿は無かった。

神楽ちゃんは定春の散歩で、銀さんはパチンコだろうか。あのダメ人間め。

新八は今日は家の用事で来れないと言っていたし、この様子だと夕方まで私一人だろう。銀さんは飲んで帰ってくる可能性があるけど。

居間にある椅子に腰掛け、先程斉藤さんから頂いた手紙を早速読んでみることにした。


「ええと、なになに……?」


内容は、依頼のお礼。そして、良かったら自分とお話をしてほしいとのこと。つまり文通相手になってほしいといったところか。

語尾のZも相変わらずだな、と小さく吹き出し、手紙に並ぶ綺麗な字を見つめた。

シャイな彼が、わざわざ手渡しで手紙をくれたのだ。一体、これを届けるのに何回トイレに行ったんだろうか。想像して、また少し笑ってしまった。


「よし、お返事書こう」


勿論、喜んで。の二つ返事を返す為に、筆を取った。



.
(それから友達になり、なんやかんやあって友達の枠を超えた関係になるのだが、それはまた別のお話)
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