短編
□寄り道
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退屈な学校が終わり、放課後になった。
今日は怪盗団の集まりも無く、リーダーである暁くんからの指示で、今は次に備えて休め、との事。
流石リーダー、的確な判断だと思った。今はしっかりと、パレスでの疲れを取らなくては。
カフェの店員から受け取った飲み物にストローを差し、当ても無くぶらぶらと駅を歩く。こういう時間も、たまには必要だよね。
「……ん?」
駅の地下通路を歩いていると、視界の端に見覚えのある人影を捉えた。
そちらを見やると、いつものように指で構図を切るポーズをこちらに向けている、祐介くんの姿があった。
「やはり楓だったか」
「お、おお……祐介くん、奇遇だね」
スッと手を下ろして話しかけてくる祐介くん。周りを見て、祐介くんも一人なのだと察する。
ああ、そういえば祐介くんはこの辺りで、よく人間観察をしていると言ってたっけ。
「そうだ楓、今時間はあるだろうか」
「? うん、大丈夫。どうしたの?」
「この前、公募展に俺の作品が受かり、今展示中なんだ。よかったら一緒に見に行かないか? そして、楓の率直な感想が欲しい」
見に行くのが待ち遠しい。そんな雰囲気で、真っ直ぐ見つめてくる祐介くんに、少し考えてから小さく頷いた。
「私でよければ」
「ありがとう」
上手く感想を伝えることが出来る自信は無いが、祐介くんの絵は純粋に見に行きたい。
私が頷くのを見た祐介くんは嬉しそうに微笑んで、早速向かおう、と歩き出した。
祐介くんと自分の歩幅は大分差がある。少し遅れて後を追っていると、歩幅の差に気付いたのか、歩く速さを緩めてさりげなく私に合わせてくれた。おお……少しドキッとしてしまったよ。
「祐介くんって、こういう所スマートだよね」
「? なにがだ」
「無自覚か〜……。ほんと、祐介くんモテそうなのに」
「……本当になんの話をしている?」
ワケが分からない、というように首を傾げる祐介くんを横目に、手に持っていた飲み物に口をつける。あ、この新作美味しい。
すると、祐介くんは気になったのか飲み物へ視線を下げた。
「何を飲んでいるんだ?」
「ん? お気に入りのカフェで、新作出てたの。イチゴクリームムース味」
「ほう」
興味津々と、手に持つ飲み物を見つめられて、なんだか新しいオモチャで遊びたい子供のようだと小さく笑ってしまった。
そんな私を気にすることなく、じっと未だに見つめている祐介くんに、飲み物を傾ける。
「飲んでみる?」
「いいのか」
「ふふ、いいよ」
祐介くんは、有り難い、と言って、そのまま少し屈んで……って。
「ちょ、このまま飲む!? ほら、持って良いから!」
「む、そうか」
慌てて手渡すと、祐介くんはすんなりと受け取ってストローを咥えた。
ほんと、祐介くんって……変わってるというか……人とのテンポが違う。うん、マイペースだ。そこも彼の魅力でもあるんだろうけど。
…………あれ、そういえば、今さりげなく間接キスしてる?
凄く大事な事に気付いてしまい、すぐに祐介くんに視線を戻す。
しかし、祐介くんは大して気にしていない、いや気付いていない様子で飲み物を味わっていた。なんだ、普通そうだ。よかった。
「ふむ、美味いな……」
「でしょ」
「ああ、中々の味だ」
返された飲み物を受け取り、そこで再びこのまま飲んでもいいものか、という疑問が浮かぶ。
いや別に、私は間接キスとか全然気にしないし。祐介くんも全然気にしてないみたいだから、そこまで考える必要ないと思うんだけど。
以前やった歓迎会で、一緒のお鍋食べたし。うん、一緒一緒。その時の、物は違うだけで状況は一緒だから。うん。
「もうすぐ着くぞ」
「へ? あ、ああ、うん」
ええい、ままよ!! とストローを咥え、一気に飲み干す。うん、味は変わらないんだから! 気にしない!
ぷは、とストローから口を離して、祐介くんを見やる。
すると、何故か祐介くんは真顔でこちらをじいと見つめていた。
「どうしたの?」
「……いや、なんでもない」
声を掛けると、少し考える素振りを見せたものの、何かを小さく呟いたと思ったらすぐに前を向いてしまった祐介くんに小首を傾げる。
もしかして、もっと飲みたかったとかそんなんだろうか。もしそうなら、なんだか申し訳ない事をしてしまった。
「あ、見えてきたね」
「ああ。ふふ、周りの評価が楽しみだ」
楽しそうな祐介くんを見て、私も釣られるように小さく笑う。
近くにあったゴミ箱に、空になった飲み物の容器を入れて、祐介くんと公募展が行われている建物へと足を進めた。
……そういえば、さっき祐介くんはなんて言ったんだろう?
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