短編

□言い逃げ
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「だーっ無理! 分かんねえ!」


ファミレスに来て、勉強をしていた私と竜司。しかし、竜司は早々にギブアップ! と教科書をテーブルに置いて、天井を見上げた。

それを一見してから、私も教科書を置き、溜め息をついた。


「なー、やっぱりゲームしようぜ。試験が迫る時にやるゲームの楽しさ、教えてやるからよ」

「あのねぇ……今回の試験、ヤバイから勉強会しようって言い出したのは誰よ」


ジトリと見つめながらそう言うと、竜司はバツの悪そうな顔をしてから頭を数回掻いて、ガクリと項垂れた。


「…………俺デス」

「なら、さっさとやる。ほら、分からない所は私が教えるから」

「……ウッス」


渋々、といった様子で再びシャーペンを握る竜司を見てから、私も教科書へ視線を落とした。

……そもそも、竜司は何で私と勉強会という流れになったんだろうか。

確かに、竜司とは友達であり、怪盗団の仲間でもある。ただ、それだけだ。

竜司は大体、暁と二人きり、もしくは怪盗団のメンバーで勉強会をするのに。だから、勉強会のお誘いを受けた時は本当に驚いてしまった。思わず二回聞き直したぐらいだ。

目の前に座る竜司を、チラリと盗み見る。

竜司は眉根を寄せながら、私の言った通りに問題と睨めっこをしている。

その様子を伺っていると、竜司は視線に気付いたのか顔を上げてこちらを見やった。


「んだよ?」

「あ、ごめん、ジロジロ見ちゃって。…………あのさ、ちょっと聞きたいんだけど、竜司は何で私を誘ってくれたの?」

「何で、って……」

「あ、嫌なわけじゃないの。寧ろ、お誘いされて嬉しいし。でも、珍しいなって。ほら、竜司って、その……私と二人になる事避けてる所あるじゃん」


少し目を逸らしながら言うと、竜司は、は? と目を丸くして私を見た。だって、そうだ。二人になるような場面になると、大抵他の人の所に行くか人を呼び出している。主に暁とか。

だから、てっきり私と二人になるのは嫌なのだろう、と思っていたんだけど。

竜司は自分の行動を思い返していたのか、少し頭を捻ってから申し訳なさそうな顔をした。


「あー……わりぃ。別にお前の事避けてたワケじゃねーんだわ。……つーか、そう見えてたのか……」

「え?」


ガシガシと頭を掻いて、少し項垂れてから、よし、と小さく呟いて再びこちらを見やる竜司。

いつになく真剣な表情をした竜司に、少しだけドキリとしてしまう。


「な、なに?」

「あのよ、さっきも言ったけど、別にお前の事避けてるワケじゃねーよ。ただ、あー……二人は緊張するっつーか……意識しちまって、上手く話せないっつーか……」

「う、うん……?」


竜司の言葉を必死に頭の中で整理しながら、相槌を打っていく。二人だと緊張して、意識して上手く話せない……?

もしかして、と自分に都合の良い勘違いをしそうになるけど、そんな訳ないか……と、その可能性を消して、もう一つの可能性を考える。

……あまり考えたくないけど、以前戦闘中に敵数体を一人で殲滅したから、そのせいで怖がられてたり……? 確かにあの時は、杏や双葉にもドン引きされてしまったし……。

いや十分有り得る……!! と、一人で頭を抱えそうになっていると、竜司から不機嫌そうな声が洩れた。


「お前、ぜってー今勘違いしてんだろ」

「いや、その、あの時はたまたまで、決して怖がらせるつもりは無くてですね」

「はあ? 何の話だよ。やっぱお前、俺の話最後まで聞いてなかったな」


深いため息をつく竜司に、ごめん、と謝る。

すると竜司は、少しの沈黙の後に再び口を開いた。


「好きだって言ったんだよ、楓の事」

「……え」


思考回路が停止する。

竜司が、私を好き? あれ、好きってなんだっけ。どういう意味だったっけ。

竜司の表情を見る限り、友達としての好き、という雰囲気の言葉ではない。そこまで鈍くはないつもりだ。じゃあ、これは…………。

徐々に意味を理解していくにつれ、頬が熱くなってくる感覚に襲われた。うわ、今絶対に顔が真っ赤だ。


「ええと……」


返事をしなくては、と頭では分かっていても、上手く言葉が出てこない。竜司は真剣に言っているんだから、それに答えなければ……。

口を開けては閉じて、開けては閉じてを繰り返していると、竜司はテーブルに広げていた勉強道具をサッサと忙しなく自身の鞄に突っ込み、彼も赤くなった顔で勢い良く席を立った。


「じゃ、じゃあ! そういうことだから!! サヨナラ!!」

「え、ちょ、りゅう……」


バタバタと音を立てて出て行った竜司の方を少しの間見つめてから、長いため息をついた。

言い逃げかよ……! と熱い頬を両手で抑える。


「……明日から、どんな顔でアイツと会えばいいの」


とんでもない爆弾に勉強どころではなくなり、心の中で竜司のバカ、と呟いた。



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