妄想話

□彼氏と彼氏の事情
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ガチャ。


「ただいまー」

「お邪魔しまーす」

部屋には段ボールがあったり、必要最低限の家具しか無い殺風景な男一人暮らしの部屋。そこへ明るい茶色の髪と、グレーのパーカーにリュック、膝が破れた細身の黒いパンツのあの子がやって来た。

「まだ全然生活感なくて、キッチン道具は最低限はあると思う」

「あると思うって、ふふ、意外とマイペース。そう言えば…」

言いかけた彼の方を見ると

「お名前、聞いてませんでした。いつもお店に来てくださってたのに。」

「俺はチェスンヒョン、8月にここに越して来たけど素敵なお店に出会えて良かったよ」

そして素敵な君にも出会えた。

「スンヒョンさん…じゃあ、早速作ります!」

道すがらスーパーで買い出しをして来た材料が詰まった袋をテソン君に手渡す。

「お店の味には全然敵わないけど…得意のチャーハン作りますね!」

なんでだろう、どうしてこんなに可愛いんだ。これといって美男子でも、背が高いわけでも無い。でも俺の気持ちは惹かれて止まない。ずっと眺めていたい、独り占めしていたい…。

テソン君は本当によく笑う。ニコニコと、その笑顔は屈託がなく悪気もなく見ていて爽快なくらいだ。その為か人懐っこい印象で、おまけに優しくて気さく、まるで天使みたい。
あの店に通いつめて知ったけど地味にテソン君目当ての客も少なくない。
そんなテソン君が今俺の家のキッチンで俺の為だけにチャーハンを作ってくれている。
もうさっきからニヤケが止まらない。

「ねえねえ、テソン君はこの近所?」

「はい、お店の二階に居候させてもらってます」

「そうなんだ、テソン君て何才?」

「24です」

「趣味は?休みは何してるの?」

「ふっ、ふふ!」

「え?なになに」

「スンヒョンさん、質問ばっかり」

「あ、ごめん!」

はやる気持ちを見透かされたようで顔が熱くなる。

「僕だって聞きたいことあるのに。」

「えっ、えっ?何々なんでも答える!」

俺が食い気味に言うとテソン君はくすりとはにかんで言ったんだ。

「スンヒョンさんはお付き合いされてる方、いるんですか?」

「え…」

予想だにしなかった質問と、その質問が意図する事と、この後の展開(妄想)が一気に脳裏を駆け巡った。

「あの、ごめんなさい。変なこと聞いちゃいました…」

笑みを消して手元の包丁に視線を落としたテソン君

「いや、変じゃない。でも、どうしてそんなこと」

「だって、スンヒョンさんてかっこいいし優しいし、気になったんです」

「いないよ。」

「え…」

「いないんだ、今は。」

「そうですか」

「テソン君は…?」

「…僕もいません」


な、なんだこの空気は!
えっ、えっ、ええーーー。
すっ、すっ、


「す、す、すっ、」

「…スンヒョンさん」

「す、す」

「嬉しいです、スンヒョンさんに会えて…」

「好きです!」

言うしかないだろう、この雰囲気は明らかに“いい感じ”ってやつだ!

「スンヒョンさん…」

「えっと、その、…好きなんだ。テソン君のことが」

男同士とか、まだお互いのことよく知らないとか、これからどうしたいだとか、それより今目の前にいる君のことが俺は

「好き、なんだ」

「僕、まだ良くあなたのことを知りません。会ってからまだ間もないし。」

テソン君は俯いて自分の手元を見ながらゆっくりと話し出した。

「毎日、ドアが開く度にスンヒョンさんかもって思っちゃうんです。違う人だったらなんだかがっかりしちゃって。僕だって気になっていたんです。スンヒョンさんの年とか趣味とか、恋人いるのかな…とか。」

「テソン君…」

「だから僕も、僕もたぶん…好きです。スンヒョンさんが」

「テソン君…!!!」

両手でぎゅうっと熱烈なハグ…は照れ臭くて出来なかったけど、2人でささやかに手を取り合って頬を赤くして気持ちを確かめ合った。



こうしてトントン拍子に交際する事になりました。




END

−−−−−−−−−−−−−


実は小悪魔なテソン君。でもタプさんは嬉々として翻弄されるのです(笑)
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