妄想話

□ダンデライオンA
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「すんひょ、ひょん」

「す、ん、ひょ、に、ひょ、ん!」

「す、んひょに、ひょん!」

「上手上手〜」

スンヒョンくんが拍手してあげるとテソンちゃんはそれはそれは嬉しそうに笑いました。




あれはスンヒョンくんが年長さんに進級して初めて登園した日の事でした。
通い慣れた幼稚園へオンマに手を引かれて登園すると、入り口の前で小さな男の子がその子のオンマらしき人の足にしがみついて泣きじゃくっていたのです。

「泣いてる…」

それを見てオンマの手をぎゅっと強く握り返し立ち止まるスンヒョンくん。

「スンヒョンもあったわねえ、年少さんの頃は幼稚園を抜け出したりしちゃってね」

「そうだっけ?オンマぁ、あの子かわいそう…」

何故だか大泣きするその子を見て胸がざわざわしました。

強く握っていたオンマの手をパッと離すと、迷うことなくその子の元へ駆け寄っていくスンヒョンくん。

「だいじょうぶ?」

女性の足元にしがみついていたその子が声の方を振り向くと

「おれ、すんひょん。泣くとおめめいたくなっちゃうよ?」

その子はまあるい輪郭が幼さを感じさせ、ぽってりしたピンク色のお口と涙が溢れてキラキラしている瞳がとても愛らしい男の子でした。

「あら、スンヒョンくんて言うの?ありがとう。ほらテソン、大きいお兄ちゃんが心配してくれてるわよ。もう泣くのやめよう?」

「ん…」

スンヒョンくんの方を見つめると、不思議と涙が止んだ男の子。

それが二人の出会いでした。

「はい、手つないであげる!いっしょだったら平気だよ!」

スンヒョンくんは笑ってみせて、手を差し伸べました。
男の子は一度オンマの顔を見上げてから、少し迷いながらも小さな手を伸ばしスンヒョンくんの手にそっと触れます。

「…ぼく」

「ん?なあに?」

消えてしまいそうな小さな声にスンヒョンくんは出来るだけ優しい声で問い返しました。

「ぼく…てそんです。さんさいです。」

ゆっくり、でも丁寧に伝えてくれるその声は少し掠れて、ふんわりとスンヒョンくんの耳へくすぐる様に響きました。

「てそんちゃん!おれとおともだちね!」

満面の笑みでテソンちゃんへそう告げると、先ほどまで涙で濡れていた瞳を細めて満面の笑顔を見せてくれました。
その笑顔と言ったら、お日様よりも眩しくてお布団よりもふわふわでスンヒョンくんが一番大好きだったあゆみ先生よりずっと可愛くて、その瞬間からスンヒョンくんの世界はテソンちゃんを中心に回り出したのです。

「うん!す、ひょん、くん!」

まだ上手におしゃべりできないテソンちゃんは覚束ない口調でスンヒョンくんに呼びかけました。

スンヒョンくんはその瞳に自分を映し、一所懸命名前を呼んでくれるテソンちゃんの事が忽ち大好きになってしまいました。


その日からスンヒョンくんとテソンちゃんはどんなお友達よりも仲良く、許される限りどこでもいつでも二人一緒に過ごしたのでした。

まだお喋りを上手に出来ないテソンちゃんは「すんひょにひょん」と言うことが大変そうです。
二人は園庭の花壇に腰掛けて練習をしました。

「すんひょに、ひょん。はい!言ってみて!」

「す、ひょ、ひょん」

「に〜だよ、に〜て言うの!すんひょに!」

「に、に、すん、ひょ、に、」

「言えた!じょうず!」

「うふふ」
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