妄想話

□Semi-Tropical BOY
1ページ/1ページ



「タッピョンてすげえテソニヒョンに懐いてますよね。」


ケータリングの料理をつまみながらスンリがそう言った。

「そんな事ないよ、スンリにだって懐いてるでしょ」

「俺はいじられてるだけ、テソニヒョンにだけ優しいしステージの上でなんかベッタベタじゃないすか。空港とかでもさ」

「はは、あれはパフォーマンス。カメラがあればヒョンだって愛嬌をしてくれるだけだよ…」


本当に。

ステージ外でのタッピョンとの接点なんて驚くほどない。もともとインドアな僕だけど、それでもジヨニヒョンやべべヒョンは時々声をかけてご飯に誘ってくれたりプライベートな繋がりもあると言うのに。
避けられてるんじゃ、と言うくらいタッピョンは僕との接点を持たない。

僕はタッピョンに対して強い憧れがある、背が高くて足が長くて格好良くて、大人びた魅力と子どもみたいなあどけなさを持ち合わせる才能溢れる兄。
そんなタッピョンと同じグループでいられて嬉しい。
ジヨニヒョンみたいに僕もタッピョンと仲良くしたい。

でもしょうがないよなあ、タッピョンは僕に興味なんかないんだもん。きっとタッピョンは僕をつまらない奴って思ってる、タッピョンの華やかな私生活の中に僕と共有できるものなんて何一つないんだもの。
格好良いヒョンに隣に僕みたいな冴えない奴が居ていいはずがない。


と、そこまで考えて嘆息を吐く。
いつもこれについて考え出すと止まらなくなりとても寂しくなってしまう。

「いや、確実に懐いてますよ。タッピョンがあんなに懐いてんのテソニヒョンだけっすよ!」

まだ言うか。
話題を変える気がないらしいスンリは僕の向かい側のソファに腰を下ろす。

「だからそれは無いってば」

「 見てればわかります。俺その内恋愛感情にでもなるんじゃ無いかって心配ですもん」

的外れな事ばかり言う。
段々イライラして来た。

「あのテソニヒョンを見る目はヤバイっすね」

「バカみたい、ヒョンは僕になんか興味ないよ。実際プライベートで会うことなんかないしグループチャット以外の連絡なんかした事ないし…」

言ってて悲しくなる、タッピョンの眼中にいない自分。不甲斐ない。

「だからっすよ!その大事にしてる感が特別って言うか…あの人そう言うとこあるでしょ、大事なものは部屋の奥の方に仕舞い込んで誰にも触らせたくないみたいな。きっとテソニヒョンの事お気に入りすぎて触れないんだろうな…」

「はあ?変なの。そんなのスンリしか思ってないよ」

「ヒョン、そうやって自己評価下げるのやめた方がイイっすよ」

「うるさい、いいからそろそろ食べるの止めろよ。本番まで時間ないよ」

「ストイックなんだから。でもマジでヒョンが思ってるよりタッピョンはテソニヒョンの事が好きだと思う。」


…だったら良いな。なんて思ってしまう。
特別な愛情なんていらない、メンバーとして、弟として、みんなと同じくらいの愛を受けたいって思うくらいは許してほしい。


「…テソン」

背後のドアが開いたと同時に名前を呼ばれる。

「タッピョン、」

噂をしていたからかな、そこには胸中の相手が立っていた。

「あ!今ちょうど噂してたんすよ!」

「俺の?テソンと?」

「タッピョンはテソニヒョンに懐いてる〜って!」

「おまっ!ば、馬鹿か!そんなはずないだろ!」

そんなに否定しなくて良いじゃん。
あまりに躍起に言うものだから胸がズキズキして来た。

「そんなに顔赤くしちゃって〜」

「黙れスンリ!テソンが誤解するだろ!」

「誤解って…」

誤解って何ですか。僕に懐いてると思われるのはそんなに嫌?改めてヒョンとの距離を感じて、まるで自分がヒョンには要らない存在だと言われてる様な気持ちになってしまって、その場にいるのも居たたまれない気分になって来る。

「はは…ほらねスンリ。思い過ごしだよ、僕がタッピョンの特別な訳ないだろ。ヒョンごめんなさい、気にしないで。僕先にメイク室行ってます!」

自分に言い聞かせるように口早に2人に告げてその場を立ち去って来た。
ステージの幕が上がればまたタッピョンはきっと僕の事を弟扱いしてくれる。


タッピョンが「テソンイ」と呼んでくれる声色や、空港でお茶目に僕の腕に触れてくる感触。あれが本当の気持ちだったら良いのに。

いつかタッピョンの隣で一緒に笑えるくらいの男になろう、それまで日々きちんと努力を怠らないようにしないと。
グループの足を引っ張らないように、タッピョンに見合うような大人になるんだ!

「よしっ!!!」

気合いを入れてバックステージへと向かった。






−−−−−−−−−−−−





「おいスンリ。」

「なんですか臆病なタッピョン」

「俺のどこが臆病だ!大体お前テソンに変なこと吹き込むな!」

「大事にしすぎて手も出せないような男は臆病者です。せっかく一手打ってやろうと思ったけど」

「なっ、しょうがないだろ!下手に嫌われたくない」

「女々しい。テソニヒョンはああ見えて業界人にモテるんですからね。あんまりのんびりしてるとさっさと恋人作っちゃいますよ。」

「テソンがそんな事する訳ないだろ!」

「どうだか、あ、今度合コン誘ってみよう」

「やめろスンリ」

「怖い怖い怖い!至近距離から睨みすぎ!」

「ちゃんと時期を見て食事に誘うから。」

「えっ、まさか告るんですか?」

「いや、まずコミュニケーションを計ってだな、テソンにひかれない程度の距離からじわじわと…」

「はあ〜そんな事だから未だにメンバー以上の付き合い出来てないんすよ!!」

「テソンに嫌われたくないっ!」

「はいはい、そうやって一生こじらせてたら良いんじゃないんすか?ただしもう酔っ払って明け方に電話してくるの止めてくださいよ!毎回テソニヒョンの好きなところずっと言ってくるあのキモい電話二度とごめんです!」

「やだ!する!」

「もー!」



自分が去った後の楽屋でこんなやりとりがされていた事を勿論テソンは知らないままでした。






END



−−−−−−−−−−−−


明け方に酔っ払ってテソンの好きなところを限りなく挙げてくるタッピョンからの電話に出たい。
次の章へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ