妄想話
□彼氏と彼氏の事情
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テソナとの出会いは俺の一目惚れ。
恋に落ちたのは出会って3秒だった。
この街へ越して来てようやく半月、転職先の会社にも慣れてきて生活のペースもやっと掴めてきた。
偶然会社帰りに見かけた近所の喫茶店、入り口は年季が入った木製のドア。外から見えるショーウィンドウには古めかしい食品サンプルが並んでいる。男独り身の生活は食事も偏りがちだし、近場に行きつけに出来そうな飯屋があればなあと考えていた折だった。
躊躇なくそのドアを開ける。店内もやっぱり古めかしく、でも落ち着いた雰囲気と穏やかなBGMが居心地良さそう。
入り口近くの空いている席へ腰を下ろす、店内をキョロキョロ見回していると。
「いらっしゃいませ。こちらメニューになります。今日のおすすめはポテトグラタンですよ、マスターのホワイトソースは絶品なんです」
背後から声をかけて来たその人を振り返って目に入れた瞬間、俺の体に風が吹いた気がした。
「そっ、それにしますっ!」
「ふふ、はい。ありがとうございます。」
黒いエプロンを身につけお盆を両手で胸のあたりに持つその青年は、まるで4月の風みたいに穏やかにあたたかく本当に可愛らしく笑っていた。ポテトグラタンは美味かったけど、正直俺の頭の中はふんわりとした君の笑顔だけでいっぱいだった。
それから俺は出来るだけ喫茶店へ通い詰めた。朝7時にオープンするこの店で毎朝モーニングを注文、夜は17時には閉店してしまうのでたまの休みには遅めのランチから閉店の時間まで入り浸った。
カンデソン、と言う名前を聞けたのは通い詰めて数日経った頃。マスターのお孫さんであり、今はこの店を継ぐために修行中なんだとか。
「いつもありがとうございます」
「あのスーパー、今日特売日ですよ!」
「僕もこの漫画好きなんです。」
彼の笑顔は俺の色気のない生活の中で輝く太陽みたいな存在だった。
そんなある日、休みだったが天気も良く目が覚めたのでいつもの喫茶店へモーニングを食べに出かけると。
「あ、いつもの常連さん」
テソン君が軒先で箒とちりとりを持って立っていた。
「お、おはよう。いい天気だね、モーニングをお願いします。」
勿論テソン君に会いに来てるのだが、その顔を見ると胸が高鳴る。
「ごめんなさい、今日マスターが風邪で倒れてしまって臨時休業なんです…」
「そうなんだ…弱ったな、そうだテソン君この辺りでモーニング美味しい店とか知ってる?」
あわよくば、一緒に行きませんかって言いたい!
「…僕この時間帯は大体お店に出ているのでそう言うの全然知らないんです。ごめんなさい。」
箒を両手でぎゅっと握って申し訳なさそうに俯く。
「そうだよね!ごめん、俺もこの店以外いかないからわからなくて」
「…あの、良かったら朝ご飯ご一緒にいかがですか?」
「えっ」
夢のテソン君とモーニング。
「まだ修行中の身ですけど、簡単なものなら出来ますよ」
「い、いいの?その、迷惑なんじゃ」
「まさか!毎日通ってくださる大切な常連さんですから!お役に立てて嬉しいです。あ、でもお店は勝手に使えないかも…」
「では是非俺の家へ!」
「良いんですか…?」
「勿論です!!!」
「ふふ、ではそうしましょう。」
思いがけず二人で朝食を食べる事になりました。