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□輪廻転生処刑人
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 ハンス・グランスの魂を埋め込んだホムンクルスが、ついに日の目を見ることになった。教育担当は私ことアシュリー・コクーン。まだホムンクルスの育成経験はないものの、ハンス・グランス──名前はユンゲル・クリストフだが──の生前情報なら集められるだけ集めた。準備万端、抜かりなし。
 彼の能力は確か、絶対支配だったはず。目を合わせたり声を聞かせたりした者を自分の命令どおりに動かすという強力な能力。生命にかかわることはできないという制限つきではあるものの、この処刑場で一、二を争うほどの能力であることには変わりない。しかしながら、能力無効化の特性を持つ私にはそれも通用しないんだけど。
 ユンゲルの入っているシェルターが開く。しばらくしてから、水に濡れた睫毛が開かれる。月下美人の花が開花するような美しい目覚め。生前に「魔性」と噂されていただけのことはある。上品な唇から紡がれる言葉に、その場にいる一同が耳を澄ませた。

「……リッツは」

──リッツ?
 その場にいた誰もが頭に疑問符を浮かべるものの、瞬時に理解する。生前の相棒、フリッツ・ハールマンのことであると。

「おはよう、ハンス・グランス。あなたはまだ生まれたばかりなの。だから、これからの為にもあなたには勉強をしてもらうわ」

 言葉を吟味してから目を少し開く彼。少し影を落としながらそう、と短く返答された。
 なんだか悪いことをしてしまった気分だ。仕方のないことにせよ、まだ決まっていないことをいうのはさすがに気が引けたものだから。
──そうだ、彼を自室に案内しないと。
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