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時刻は夕刻少し過ぎ。
とりわけ忙しい時期でもないお陰で、職務時間を回った今、城内の人影は既にまばらだ。
「レン!」
前方にすっかり歩き慣れた足取りで城内を散歩中らしいレンを見付け、反射的に名前を呼んだ。
あれから意識的にその姿を探してはいたものの、いざ探そうとすると不思議な事に見付からねえもんで。
やっと捕まえた手掛かりを逃す手はねえ。
呼び掛けを聞き留めくるりと振り返る。
既に充分デカイ声を出していたものの、相手が猫だけあって流石に辺りを窺いながらレンの元へと駆け寄り、少しでも視線の高さを合わせる為にしゃがみ込んだ。
幸いな事に周辺…姿が見え、会話が聞かれる範囲内に人影は無い。
それでも一応声のトーンを下げて口を開いた。
「探してたんだ。ちょっといいか?」
「いいよ」
何か少し反応に違和感を感じたような気がしたが、気のせいと言えば気のせい程度のものだったから、深くは考えないで行き先を促した。
とりあえず人の来ない場所、距離的にも一番近い俺の執務室へ向かう。
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