物語

□Magic Human
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「はっはっは……。」
男は夜の道を駆けていた。
別にランニングをしている訳ではない。
かといって家路に着くために走っているのでもない。
男は追われていたのだ。
「くそっ!なんなんだあいつは!!」
声をしぼるように出して、叫ぶ。
男は夜の散歩中にソイツに出会った。
夏だというのにソイツは赤いロングコートをはおっていた。
名前を聞かれたので、変な奴だと思いながらも男は自分の名前を言ってしまった。
次の瞬間、パン、と乾いた音とともに、右に何かが高速で通り過ぎるのを感じた。
男は何が起こったかすぐには理解できなかったが、反射的にその場から逃げ出した。
アイツはヤバいと、本能は叫んでいた。
もう息が出来ないくらい苦しい。
フラフラになりながらも男は走り続けた。が、
「あっ!」
石に足を取られ、そのまま転ぶ。
「っ痛!」
その瞬間に追いかけっこは終了した。
「はっ!」
ソイツは目の前まで来ていた。
「……。」
ソイツは無言で男の近くまで行き、見下ろしていた。
「………やるならさっさとやれよ。」
男は覚悟を決めた。
しかし、死ぬ覚悟をしたのではない。
男には勝算があった。無言でソイツは銃を構える。

そして、パンという乾いた。
音とともに弾が放たれた。
(曲がれ!!)
男は弾に向かってそう念じる。
男には不思議な力があった。物を曲げたいと強く念じると、いとも簡単に曲がる。それは弾丸でも例外ではない。が、
弾は男の肩に命中した。
「ガッ!な…何で…?」
問いにソイツは答える。
「あんたのことは事前に調査している。もちろん、あんたの力が物を曲げるものだってこともな。」
「俺……のこと?」
「ああ。だから、弾はお前の力に動かされないように特別に作ったものだ。」
「な…るほど。じゃあなぜ俺を?」
「それは今のでなんとなくわかるだろ、力の持ち主さん………そろそろか。」
すると男の体が透けていき始めた。
「な、何だよ、これ!?」
「心配はしなくていい。別に死にはしないよ。」
ソイツは平然と言う。「ただ、世界から退場するだけだ。」
だんだん、体はクリアになっていく男。
「…一つ聞かせてくれ。」
「…何?」
男が口を開く。
「どうして追いかけている時に射たなかった。」
男とソイツは真っ直ぐ走っていた。
だから射てる機会はいつでもあったはずだ。
「……それは、」

しばらくしてからソイツが口を開いた時には、男はこの世界から消えていた。
それでもなお、ソイツは続ける。
「……この弾自体が命中率悪いから。接近しなきゃ当てられないからだよ。」
そう言い終わると、ソイツは夜の闇に姿を消した。
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