Un bel funerale

□3:segreto
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 ドアをほんの少しだけ開けてみる。たったそれだけでわずかに会話が漏れ聞こえてきた。ドアの近くに座って息を殺し、耳を凝らす。少しでいいから、なにか手がかりをつかまなきゃ。

「──に──なかった……」
「────! ──の可能性が──」
「──ボスの娘は必ず奪取する」

(!!!)

 やっぱりだ。原作が始まっている。これから、たった数日のうちにみんなは、“生ききって”しまう。もう時間はただの少しだって残されていない。これからどうすればいい、何が最善なのか。これから何をするにしたって「信用」と「協力」が必要不可欠だ。そのためにはまず──

「名無し」
「!」

 呼びかけられてぎょっとおののく。不自然じゃないようにと意識しながら顔を上げた。そこには、

「ギャッ!?」
「……」
「あっいや違いますべつにそんな怖いとかじゃないですごめんなさい」

 半開きになったドアの隙間から覗く紅い瞳。彫りの深い顔が逆光で暗くなっていて、……正直に言います。すごく怖いです。急に叫んでごめんなさい。
 何度か謝罪したところでリーダーが部屋に入ってくる。やっぱり気に障ったかな、怒らせてしまったかなと土下座のためにひとまず正座したところで、正面に向き合う形でリーダーも腰を下ろした。いつになく真剣な紅に射貫かれてドキドキしながら何を言うつもりなのかと待機する。

「いったい何を隠しているんだ」

 氷漬けにされたように全身の血が冷え切ったのを感じる。

「か、くしているって……それはどういう……」
「そのままの意味だ。さっきから顔色が悪いぞ……何を知っているんだ」

 なにを、“なにを”しっているか。
 どこまで言えるのだろうか。どこまでなら言っても大丈夫だろうか。いや、そもそも言うべきじゃない。だけどこうしている間にもリーダーは私を疑う。信用されなきゃ。協力を得なきゃ。どうやって?

「……ちょっとした予言ができるんです」

 出任せだった。咄嗟に口走ってしまったことを後悔しながら次の言葉を捜していく。

「予言か」
「……、限定的なものなんですけど、条件が揃ったら必ず来る未来がわかります」

 視線をきょろきょろと忙しなく動かしながら俯いて話す。これで嘘だとばれてしまったらどうなるんだろう。信じてもらえたとしても、それはそれでどうなるんだろう。未来なんてわかりきったもの知らない。隠し通さないと。いつもみたいに猫を被って自分の素を見せないように努めなきゃ……

 リゾットは名無しをさめざめと見下ろしながら様子をみる。俯き、顔が髪で隠れた状態なので表情を見ることは難しい。肩は僅かに震え、呼吸は少し荒い。それが嘘をついているからなのか、過去にあった何かを思い出しているからなのかは把握できなかった。リゾットは右手を伸ばして名無しの首筋に触れる。大きく肩が跳ねた。指先にやや早く大きい心音が伝わる。これは──

「──このままだとみんなしんじゃうんです」
「……何?」

 名無しは顔を上げて涙ぐんだ瞳をリゾットに向ける。不信感の滲んだ表情に畳みかけるように続けた。

「わたしはみなさんをたすけたいんです」





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