Un bel funerale

□1:noia
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「ただいま」

 玄関に靴は無し。鍵入れに母や父の鍵がない。つまり、今は私一人である。やったぜ!
 荷物を部屋の入口付近に乱雑に投げると、眼鏡をかけてリビングに寝転がる。疲れた疲れたと愚痴りながら呟きアプリを開いてタイムラインをざっと眺める。家に一人だとついだらけてしまうけど、解放感と束の間の自由は何にも代えがたい至福の時間だ。だのに今日はなんだか気分が良くない。貧血気味なのか熱があるのか、ふわふわ浮いているような感覚とちょっとしためまいを感じる。
 風邪かな? 体を起こしてちょっぴり上に伸びる。肩と腰がパキっと小さく音を立てた。あーあ、そんなに酷使してるかなあ。やっぱりめまいがあって気持ち悪いので目をつむってもう一回大きく伸びをする。んん〜〜っちょっと楽チン。
 念のため熱を測っておこうかな、そう思って目を開けた。

 しかしそこにあったのはよく見知ったリビングじゃなくて真っ暗な、多分廊下。何、これ? もしかして寝落ちした? いやまさか。さっき伸びしたじゃん。起きてたじゃん。なにこれ。どういうこと?
 訳が分からなくて私はかなり焦っている。わかるのはそれだけ。どうしよう、どうしたらいい? 何が正解なんだろう。わからない。誰か教えて。

「……!」

 足音がする。誰のか、ここの人だろうか。泥棒だと思われるかも。どうしよう。なんて言ったらいいかな。夢であってほしい。いつもの、訳のわからない夢で!

 突然左腕にとてつもない痛みを感じた。すごく熱い。思わず腕を押さえると、指が、掌がべったりと何かで濡れた。生暖かくて、嫌なにおいがする。瞬間傷が一層痛んで、床に硬い何かを落とした。目を凝らすと、それはうすっぺらくて鈍く光を反射しているのが分かった。見たことがある。剃刀、だ。なんでいきなりこんなものが落ちてくるの? これはなんなの。ここはどこなの? なんでわたしがこんなめに。なんで、なんで? なんで。

「……お前は誰だ」

 暗闇に浮かんだ二つの紅い光が、じいっと私を見下ろしていた。


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