せいしんせかい。

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 長い長い夢を見ていた気がする。何の夢だったかは思い出せないけど、とても大切なことだったような……

 そこまで考えてハッとした。目の前に広がるのはあの日と同じ天井。何故ここにいるのかを考えるより早く、やってしまった、どうしよう、と言い訳を考える。

 最後に記憶があるのはあの木の下のベンチ。木の葉にさえぎられて陰になっていたおかげで心地よくてつい眠ってしまったのだった。
 ……それならそれで起こしてくれればよかったのに。ジョースター邸にいるということは、わざわざ運んでくれたということなのだろう。重かっただろうに、申し訳ない。


 ゆっくり体を起こしてグイィっと伸びをする。背骨やら肩やら、いろいろな関節が軋むように痛い。でも伸びたおかげか目はすっきりと覚めている。これじゃあ夜寝付けないなえへへ、と心中ふざけていると、目の前の扉が開いて陰鬱な顔をしたジョナサンと目が合った。おおっとデジャヴかな?

 ジョナサン、と声をかけようとしたがのどが震えてかすかに息が漏れ出すだけで音がしない。何故だろうと考えていると、ジョナサンが目に涙を浮かべて駆け寄ってきた。


「(え、なに、なにがあったn)」

「ナナセ、ナナセ! よかった……本当に良かった……!」

「ぅグエぇぇ」


 起き抜けに突然抱きしめられて妙な声が出る。目覚めた第一声が今のなんて嫌だ、認めないから。

 とりあえず声は出るし──まだ随分掠れてるけど──今のこの状況を聞かないことには話ができない。


「ほんと……なにがあったの……」

「何が、だって?! 君がずっと目を覚まさないんだもの、すごく心配してたんだよ?! もしこのまま目が覚めなかったら……し、死んじゃったらどうしようって……」

「しんじゃったら、って……まさかぁ」

「本当だよ! 一ヶ月も眠っていたんだから!」


 ……ジョナサンは無意味な嘘はつかない子だね。うん、いい子だものね解っているとも。

 こっちが夢なのではなかろうか? ぶっ続けで一ヶ月も寝るかな普通。もしかしたらそういう症例あるかもしれないね。いやいや私だよ? そんなことそうそうないって……



 頬をつねったら痛かった。




.
クライン・レビン症候群……数日から数週間にわたり眠り続けるというもの。症例は少なく、原因はわかっていない。
実はこれを聞いてとても関心を持ったため、少しだけ参考にさせていただきました。いつか原因が究明されればいいのですが……。

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