そして鬼は人と成る
□弐
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僕が名乗ると炭治郎は驚きを隠せないようだった。それはそうだろう。僕は初めて出会った「生まれつきの鬼」なわけだから、混乱するのも頷ける。
名乗った瞬間に斬られるくらいの覚悟はしていたが、こちらに敵意がさらさら無いのが分かっているのか、炭治郎はそんなことはしなかった。
少しの間俯いていた彼は迷ったように顔をあげて言葉を紡ぐ。
「タタラさんはどうして無惨のもとを離れたんですか?」
「……!」
「無惨の細胞から生まれたなら、一番近い場所にいたんですよね? なのにどうして……。なんだろう、うまく言葉にできないけれど……」
「──さあ、どうしてだったかな。随分昔の事だから、忘れてしまったよ」
「それは……」
ああ、きっと彼はわかっている。僕が嘘をついていることに気が付いているだろう。
当然だ。忘れるわけがない。幾ら時が経っていようと、忘れられるはずがない。
僕が意図的に隠し事をしたのに気付いているだろうに、追究しないのは炭治郎が優しいからだろう。
炭治郎、と声をかけようとした時、「伏せろ!」という愈史郎の声が響いた。
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