From this day

□クロロの仲間たち(マチ・シズク編)
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「え、やだ!」
「ダメだ」
「ねえ、ほんとにお願い。それか、せめてクロロはついてこないで」
「それもダメだ」
 明日行くところがあるなんて言うから、気軽にいってらっしゃいと伝えた。そして、気をつけてね、とも。未だ、ヒソカの追跡からは逃れているらしいが、そろそろ仮宿の移動があるかもしれないと先日話していたことを思い出す。原作通りなら流星街にも行く必要があるだろうし、また一人で留守番か、最近多いな淋しいなと、黙って口を尖らせていた。
「なぜそこまで拒む」
 クロロに選んでもらったパソコンで体術の動画を見ていたら、突然背後からバツンと消され閉じられる。こんな下手なやつ参考にするなと、一流クラスの男から言われては高鳴る胸に従い素直にならざるを得ない。緩む頬に力を入れ、先程の会話を思い出す。あろうことか明日私と、旅団の女二人に会いに行くというのだ。女二人、つまりマチとシズクだ。クロロをきっと好きであろうあの両名。恋愛感情絶対ある。なければあんなこと言うはずがない。
「遅かれ早かれいずれは会う身だ。違うか?」
「だって……あの二人ってクロロの……」
「オレの、なんだ」
「……ねえ、えっちしたことある?」
「呆れてものも言えないとはこういうことだな」
 だって本当に嫌だった。昔からクロロを好きな女の子二人を前にして、付き合ってますなんて言えるはずがない。私だったら嫌だ。ぽっと出の、異世界から来たとかいう胡散臭い女にクロロを盗られて、死ねよって思う。絶対絶対思う。
「……指輪外していいなら行く」
「馬鹿かお前は」
「じゃあどうすればいいの⁉」
 バッと睨み上げる私の頬には一筋だけ涙が伝った。この世界に来てからは泣いてばかりだ。クロロが驚いたような顔をするから慌てて拭いはしたけれど、その筋に触れる指先は誰にも譲りたくはない。
「お前にとってオレとの恋愛は、そんなに隠し通したいものなのか」
「……クロロの口から恋愛って出ると、なんかおかしいね……」
「真面目に答えろ」
 両頬を包まれ、ゆっくりと近付いてくる唇に、そっと瞼を閉じた。触れ合って、挟まれて、軽くぺろっと舐め取られて、こんな愛しいキスをしてくれるまでになったクロロの気持ちを、私は踏み躙ってしまっているのだろうか。不安げに瞳が揺れた気がして、すりっと手のひらに頬を寄せた。
「違うの……ごめんね……。私、自分が恥ずかしくて……」
「恥ずかしいとは?」
 親指の腹が目尻を撫で、唇がくっついた。あれほどあちらの世界では愛を伝え、何度も何度も両思いを願っていたはずなのに、いざこうして現実のものとなると、どうしても後込みしてしまうのだ。こんな女がって思われるのが本当にこわい。それは決して、クロロの容姿だけが原因ではない。命すら投げ出せるほど旅団という組織を誇りに思っている彼等の、その頂点に立つ人物の隣に私なんかが居てしまっているという事実。決して許されるはずなどないのに。
「今更お前がそれを言うのか?」
「……っ、だって」
「ならばなぜ伝えた。あれほど好きだ好きだと……オレの気も知らないで……っ」
「っ!」
 床に押し倒され、視界の先でクロロは眉間に皺を寄せながら切なげに唇を結んでいた。
「オレがお前を選んだんだ。なぜそれがわからない」
「クロ、ロ……」
 彼にしては珍しく、ひどく性急なキスをされた。私のこの劣等感のどこに、これほどクロロを刺激する要素があったのか。離れていかずにくっついたまま、コーヒー香るクロロの吐息が鼻を掠める。
「お前が先に望んだんだろ、オレの隣を」
 一度僅かに顔を上げ、そしてまた合わされた。
「夢だったんじゃないのか」
「っ……夢、だった……」
「何年も、ずっと願ってきたんだよな?」
「そう、だよ……」
「誇れ、お前はこのオレを落としたんだ。誰にも文句は言わせない」
 額が合わさり、クロロはじっと私を見つめていた。ただひたむきに真っ直ぐと、もうその瞳に先程までの揺らめきはない。
「クロ、ロ……」
「いいよな、明日会わせても」
「っ……本当に……私でいいの……?」
「お前がいいんだ。しつこいくらいオレに惚れている、起こりもしない奇跡を願っていた馬鹿なお前が」
 もう何度の謝罪と感謝を繰り返しただろうか。明日、本当にあの二人と会うのだ。あの、女二人と。幾人もの未来を変えた、運命の街ヨークシンシティ。その一連の流れが脳内を駆け巡り、この日は一睡もできなかった。










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