From this day

□クロロの仲間たち(シャルナーク編)
1ページ/3ページ


 昨夜クロロに与えられていた熱がないことに気付き、ぼんやりと瞼を開けた。私を包み眠ってくれていた温もりはとうに冷え、一瞬ここがどこなのかわからなくなる。時刻を確認したくて枕元に手を伸ばせば、そこにあったものは私のケータイではない。やたら重いそれをがっしりと掴み、眠い目を擦りながら眺めたところで突然思考が覚醒しベッドに突っ伏した。そうだ私は昨日、次元を超えたんだった。時間軸が異なる為、まだ日本ではあの爆発に巻き込まれた人間がいることすらわかってはいないだろう。
 指先が震え呼吸が荒くなる。クロロの姿がない、ただそれだけでなぜこんなにも動揺が走るのか。どうにかしなければと頭では十分理解しているつもりでも、こうして起き上がり小走りでバストイレの扉を開けているのだから当分は救われそうにない。どこにもいない現状に俯き、涙が込み上がってきたところで玄関の鍵がカチャリと解かれる音。急いで駆け寄り、開いた途端に抱きついたら「不用心だ」と怒られた。
「だって……」
「二度とするな」
「……ちゃんと……クロロだってわかってたから……」
 そういうことを言っているんじゃない。クロロの目は語っていたが、先にただいまくらいあってもいいのではないか。私がどれほどこの地の生活を不安に思っているかなど、クロロならよく知っているはずなのに。
「飯食うだろ。買ってきた」
「……」
「わかった、オレが悪かったよ。黙って行ったから淋しかったんだな」
 ふんわり抱かれ背中を叩かれ、クロロの匂いで深呼吸をしたらようやく少しだけ落ち着けた。謝罪と、二度としないことを伝えれば、クロロは困ったように笑っている。
「呆れた……?」
「いや、愛しいよ」
「絶対嘘……」
「素直に受け取れ」
 こちらでは有名なのだろうか、ロゴが入ったコーヒーのカップが目の前に置かれ、テーブルの上に軽食が広げられる。昨夜は何も食べていなかったのだ、視覚で認識した途端にお腹が鳴り、横ではクロロもパンの包みを開封していた。寝起きの淋しさを埋めるようにぴったりくっついたら、クロロは何も言わずに腰を抱いてくれる。昔なら、すぐに引き剥がされたのに。
「……オイ、早く食え」
 ぎゅっと抱きついたまま動かなくなった私に、今度こそ呆れともとれる声が降ってくる。もうちょっとだけ、と甘える私を今のクロロは怒りもしない。
「お昼は私が作ってもいい……? 買い物行きたいんだけど……」
 埋めていた顔を上げ、フライパンひとつない真新しいキッチンを一瞥する。クロロはコーヒー片手に私の視線を追うと、少しだけ表情を緩めていた。
「無理にとは……」
「いや、わかった。一緒に行こう」
「本当?」
「ああ、だが今日はダメだ。これからシャルが来る」
「…………うん?」
 ようやくパンをひとつ手に取り食べ始めたというところ、思わぬ台詞にピタリと口の動きが止まった。冷静にクロロの言葉を反芻し「何時?」と問い掛ける私に彼は何食わぬ顔で言う。
「あと三十分もあれば着くだろうな。刺青の位置は考えてあるか?」
「さ……!」
 三十分って。一体何を考えているのだこの男は。あまりにも短いその時間に固まり、先程までの孤独感など一瞬にしてどこかへ吹き飛んでいってしまった。のんきに食事などしている場合ではない。何から手を付けるべきか必死に模索する私とは裏腹に、クロロは眉間の皺を深め、立ち上がろうとする私の手首を強引に掴んでくる。



次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ