From this day

□クロロの魅力
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 真夏の夕暮時。汗だくになりながら帰宅し部屋の扉を開いたところで私は息をのむ。上半身裸のクロロが、扇風機をその身に固定したままうつ伏せの状態で眠っていたのだ。なぜか今日に限ってレザーパンツを履き、留められてすらいないその隙間から覗く色のある下着に、私の視線はベッド上から離れようともしない。
「…………」
 本気かこの男、と正直思いはした。これは一体何のご褒美なのだろうかと。日々頑張っている私に、まさかあのクロロが身体を張ったプレゼントを企画してくれたとでもいうのか。そんなわけない。これは完全に偶然の産物である。
 広背筋、そして肩甲骨の隆起がたまらなく情欲を含んでいることに驚いた。見慣れているとばかり思っていたが、これほどじっくり拝んだことなどかつてなかったのかもしれない。腰から尻にかけてのラインをゆっくりと目線で辿り、太股、ふくら脛、そして足の指先までクロロは本当に何もかも完璧だった。無駄なものが何ひとつないクロロの肉体美を前に、無意識下で唾を飲み込む。頭がのぼせてくらくらした。
 ダメだもう。冷たいシャワーでも浴びてこよう。ここは一度落ち着くべきだ。私は替えの下着を出し、バスタオルを用意し、できるだけ静かに部屋を後にしようとしたのだが、そのときふと耳に届いたクロロの甘く身じろぐ吐息に思わず振り向いてしまっていた。
 見ればクロロがゆっくりと仰向けになりながら再び寝入る姿があるではないか。頬に付いた枕の痕跡が可愛いな、とか、そんなことを考えているうちに出て行けばよかったのに私の馬鹿野郎。
「クロロ……」
 まるで誘われるかのように踵を返した。静かに歩み、そうしてベッドに片膝をついたとき、互いの身体が僅かに沈みこの上なく緊張する。気配に敏感なクロロのことだ、私の存在など入室前から気付いているはずなのに、なぜずっと眠ったふりを続けているの? 本当に、してしまうけど、いい?
「クロロ……大好き……」
 この沈黙がもしも彼の答えであるなら、私はどんなに幸せだろうか。
 髪を押さえながらゆっくりと唇を合わせたとき、見下ろした先ではようやく現れた深い黒色の瞳が、ただ真っ直ぐと私を見据えていた。
「寝込みを襲うにしては弱いな……」
 腰掛けた私の頬にクロロが仰向けのまま触れてくる。少しだけ掠れたその声に、たまらなく泣きそうになった。
「唇だけで満足なのか?」
「またそうやって期待を持たせるようなこと言うし……」
「フェラくらいするかと思った」
「そっち⁉ んなわけないでしょ!」
 もう! と立ち上がる私の腰はクロロによって軽々と引き寄せられる。背後に感じた彼からの熱に、堪えきれずにいた涙が一筋だけ頬を伝った。
「おかえり……」
「っ、その声やめて……」
「くく、濡れるから? なあ、オレもお前のせいでその気になった。このまま抱いても?」
「……シャワーを希望します」
「フッ、却下だ」
「言われると思いましたよ……」
 振り返った先で見たクロロは、寝起きで乱れた髪を片手で掻き上げ愉しそうに唇をつり上げていた。彼はその存在全てで私を魅了する。もう本当に愛しすぎて死んでしまいたくなる。
「初めての経験だな。視姦で、興奮するなんて」
「……してませんけど」
「いや確実に犯された。お前の目に」
「ちょっと!」
「許してやるから早く脱げよ。お前のナカでイキたい」
「……っ」
 ああもうクロロは本当にわかっていない。これが私にとってどれだけの殺し文句なのかを。あなたが望むなら、私は何だって差し出してみせるのに。
「人とは本当に面白い。オレも、そしてお前も」
 目を伏せ笑んだその顔は、すぐに私を見つめ赤い舌を覗かせる。ゾクッと背筋が引きつり、浮かぶ汗を執拗に舐められた。
「いつか、オレにもわかる日がくるだろうか」
「っ、……なに、を?」
「何を? くく、応じる余裕があるとは驚きだな」
「待、……っんん!」
「さあ、頑張ってくれよ?」
 そう言って獰猛に動き出すクロロはいつだって難しい言葉を紡ぎ出し、そして決まって脱線する。
 それでも僅かに見え隠れする、私に向けたAre you ready? 勝手に解釈するならこう。

 覚悟は、できているのかと。







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